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「子育ての町」長泉 出生率に陰り 地価上昇で転出増、ハードとソフト両面で事業拡充

2024年度、保育室を整備する子育て支援拠点「パルながいずみ」。他市町から多くの親子が訪れる 「子育ての町」のイメージを打ち出している長泉町で近年、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」と出生数が、ともに減少傾向にある。国や静岡県との比較では依然高水準だが、2023年度からハードとソフトの両面で事業を拡充し、24年度は新たな施策を採用。「長泉方式」と呼ばれる独自策を充実させる。
 県によると、22年の合計特殊出生率は全国1・26に対し、県1・33。町の独自調査では、12年の1・99から減少傾向が続き、22年には1・54と歯止めがかかる兆候はみられない。出生数も21年に1998年以来の400人割れをしてからは減少の一途だ。長泉町の合計特殊出生率と出生数の推移
 町は、他市町に先駆けて実施した幼児教育・保育の無償化が全国的に導入されて優位性が低下したこと、市街地の地価上昇により、宅地を求めて子育て世帯が町外へ転出していることが背景にあると分析する。池田修町長は「人気の町になると地価が上がり、住居取得の際に離れてしまう。今まさにまちづくりの難しさに直面している。子どもたちなくして、町の将来の活性化はありえない」と危機感をあらわにする。
 ■経済支援
 これを受け2023年度、世帯年収や兄弟の年齢に関係なく、第2子保育料の無料化を打ち出した。昨年から町内保育園の1次申し込み数は30人増加。一方、母親が産前産後のタクシー利用時に初乗り運賃20回分を助成する事業は、登録者228人に対し、利用は192件(1月末現在)と低調だ。宍戸浩こども未来課長は「特効薬はない。複数年かけて継続し、検証することに意味がある」と長期的視点で臨む。
 ■ハード面
 24年度はハード面の整備に力を入れる。増え続ける保育需要に対応し、子育て支援拠点「パルながいずみ」に新たに1、2歳児が一定期間継続して利用できる保育室を整備する。「特定の施設だけを希望」などの理由で待機児童の集計から外された「隠れ待機児童」は91人(23年4月1日現在)。平日のある日、1歳の子どもと訪れた主婦渡辺由里恵さんは「働きながら子育てをする母親にとっては保育室はうれしい」と笑顔を見せた。
 一方、不登校の児童生徒は約110人で増加傾向。このため、学校以外の教育の場を提供するため教育支援センター「いずみ教室」を開設する。センターでは学校の登校日に合わせて元教員が学習指導や調理実習をし、保護者の不安解消のために教育相談も実施する。
 ■小中学校
 町は20年から段階的に、小中学校に入学する児童生徒が学校生活を円滑に送れるようアドバイザーとして元校長や園長を町立の幼稚園や小中学校などに派遣する取り組みを展開中だ。小学全3校には、児童の生活・学習習慣の基本を確立しようと1・2年クラスに1人ずつ支援員を配置するほか、グレーゾーンとされる普通クラスの子ども支援に3~4人ずつの特別支援教育補助員が入る。
 中学全2校には、生徒や保護者が悩みを相談するスペースを設け、相談員が支援に当たる。石井宣明教育長は「子育てと教育が一体で支援をしていくことに意味がある」と強調する。
 ■人材確保
 広範な支援を具現化させるには人材確保が急務。保育現場の人材不足に対しては、4年前から保育士資格を有しながら幼児教育施設で働いていない潜在保育士の登録制度「幼保おたすけ人材バンク」を導入している。幼稚園や保育園、こども園のニーズに合わせて派遣、現場の保育士らを支援し、復職を目指す潜在保育士の不安解消も図る。
 町内の3小学校では教員免許を取得していながら、現場に従事していない人を算数などの子どもがつまずきやすい教科の指導員として当てる。
 町は例年、一般会計予算で子育て支援に20~25%、教育費に10~13%を充ててきた。他市町より比率は高く、池田町長は「子育て、教育の環境整備は行政が担うもの。何が子育て世帯に必要かを考え、制度設計して取り入れていく」とした。
 (東部総局・天羽桜子)

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