テーマ : 教育・子育て

【牧之原・園児バス置き去り検証報告書】7項目の提言 筆頭に「保育者の資質向上」

 牧之原市の園児送迎バス置き去り事件の検証委員会が29日に同市に提出した報告書は、7項目ある提言の最初に「保育者の資質・専門性の向上」を挙げた。委員長の永倉みゆき県立大短期大学部教授は「保育や幼児教育は、ただ預かる、一日を無事に過ごすということではない。子どもの未来を育てているという意識が(川崎幼稚園は)薄かった」として、園児と向き合う保育者側の意識が再発防止の根幹を成すと主張した。

検証委員会がまとめた報告書。提言の最初に「保育者の資質・専門性の向上」を挙げている
検証委員会がまとめた報告書。提言の最初に「保育者の資質・専門性の向上」を挙げている

 「事件については申し訳ないという説明をしていたが、自身や園に課題があったとの認識はなかったように感じた」ー。永倉委員長は、川崎幼稚園の前園長(74)に聞き取り調査をした際の印象をこう振り返った。教育、保育に対するトップの姿勢は組織全体に影響するとして、二つ目の提言では運営責任者の資質の重要性も強調した。
 一方、提言は他にマニュアルの作成や安全管理研修の実施などを挙げたが、委員の一人は「どんな研修をどれぐらいやればいいのか、どんなマニュアルを作ればいいのか。一つ一つの具体的な話を盛り込むには時間が足りなかった」と議論を振り返った。別の委員は「再発防止のために園児の出欠確認方法をどうするべきか、詰め切れていない部分はある」と明かす。
 亡くなった河本千奈ちゃん=事件当時(3)=の父(39)は事件直後から前園長らと独自に面談を重ねて責任を追及してきた。報告書の提言は「当たり前のことしか書かれていない」と受け止め、「裏を返せば、当たり前のことが(川崎幼稚園は)できていなかったということ」と淡々と話した。

【解説】具体性や多面的検証に疑問  牧之原市の園児送迎バス置き去り事件の検証委が、保育者の意識に関わる内容を中心に提言をまとめたのは、少しの気づきや心がけで今回の事件は防げたーとの思いがあったからだ。一方で提言の具体性や、問題点の多面的な検証ができていたのかは疑問が残った。
 3歳の女児の命が失われた事件は社会的に大きな注目を集めた。国は送迎バスへの安全装置設置を義務化し、遺族はSNSなどで悲痛な思いや園への怒りを発信し続けている。国レベルで再発防止策が動き始め、事件の概要や原因もある程度認知されていた中で検証活動は始まった。検証委は事件の根本的な原因を徹底的に深掘りし、既に社会で進められていた対策を上回る全く新しい観点から提言を打ち出すことも重要な役割だったのではないか。
 市に報告された提言の7項目のうち、少なくとも3項目は事件の約1カ月後に県と市が出した改善勧告と重複していた。委員長は意図した結果ではないとしたが、1年半がたった今、同じ項目が並ぶのは違和感があった。保育者の負担業務の多さや送迎バスに外部人材を活用する是非など、検討すべき点は他にもあったはずと思わざるを得ない。
 二度と同じことを繰り返さないために何が必要か。戻らない命の重みとともに、提言を出発点として社会全体で考え続けていく必要がある。

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