テーマ : 教育・子育て

なくなる学校。地域にできることは?② 保護者インタビュー【賛否万論】

 少子化によって中山間地を中心に公立小中学校の統廃合が加速する中で、地域の核だった学校と地域の在り方が問われています。「なくなる学校。地域にできることは?」と題した今回のテーマ。前週は静岡市葵区藁科川上流域の学校統廃合の動きを整理し、住民の葛藤や本音を紹介しました。今週は統合された旧清沢小で閉校時にPTA会長を務めた和田絹子さん(42)にこれまでの経緯や思い、今後の課題について聞きました。
 (社会部・大橋弘典)

新学校核にUターン促進を 旧清沢小PTA会長だった和田絹子さん photo03 旧清沢小PTA会長だった和田絹子さん
 旧清沢小の保護者が中藁科小との統合に向けて市教委に働きかけた経緯は。
 「子育て支援活動をする中で未就学児の数を調べてみたところ、今後さらに子どもの数が少なくなり、1人だけの学年が出てくることが分かりました。マンツーマン指導になる教員と反りが合わないと大変ですし、6年間、同じ環境の中で同じ子と過ごせば、他の子の意見を尊重したり、ぶつけ合ったりするのがしづらい環境になり、授業の展開も難しいという話を聞きます。生徒数の多い中学校や高校に進学した際、環境の変化についていけない子もいます。そのような状況で清沢小があり続けることが子どもたちにとって本当に良いのか疑問を持つようになりました」

 少子化でPTA活動はどうなっていましたか。
 「児童数とともに家庭数も減ってくるし、ひとり親や共働きの家庭も増えている中で1世帯当たりの負担が大きくなり、活動に限界を感じていました。人数が少ないので、1人で『○○委員』などの役職を二役、三役と兼ね、保護者全員がPTA役員という状況でした。だから、統合で学校の規模が大きくなれば、保護者には1世帯当たりのPTA活動の負担が軽減されるメリットもあります」

 <若者流出に危機感>
 ただ、愛着のある学校の閉校に向けて動くのは大きな決断だったのでは。
 「初めはすごく悩みました。自分も親も子どもも通った、歴史と伝統のある学校の閉校に向けて動くには、ものすごい葛藤がありました。しかし、未来の子どものことを考えて保護者が主体的に動かないといけない、今しかないと考えました。子どもの数が少ないことに魅力を感じる人もいますが、子どもを多くの友人の中で育てたいというのが保護者の大方の意見でした。少人数の教育環境を敬遠して他の学区に移る人もいて、このままでは若い世代の流出が加速してしまう危機感もあり、放っておけない状況でした」

 地域住民にはどのようにアプローチしましたか。
 「説明会やアンケートなどを通じて地域住民の理解を深め、子どもの教育環境を第一に考えて統合の必要性を訴えました。まず、現状を知ってもらうことが大事だと考え、将来の児童数の推移が目に見えて分かるグラフを添えて住民に無記名のアンケートを取りました。半数ぐらい反対があると思っていましたが、約8割の住民が賛成の意思を示してくれました。『時代の流れで仕方ない』という賛成意見の一方、反対意見として『学校がなくなると地域が廃れてしまう』『学校がなくなるなんて考えられない』という辛辣[しんらつ]な声もありましたが、説明会を開いて保護者の考え方を丁寧に伝えました」

 <地域交流は維持>
 学校がなくなると地域が廃れるという意見はどう思いますか。
 「『廃れる』が何を意味するのかにもよりますが、私は決してそうではないと考えています。子どもを見かける回数は減るかもしれませんが、例えば、伝統文化の継承に関し、子どもたちは今でも『わらしな学』として、小学校で自分の地域のこと、中学校で学区内の他地域のことを学びます。地域学習については統合後の学校でも引き継いでくれると聞いています」

 学校単位の行事は住民をつなぐ効果が結果的にあったと思いますが。
 「地域で子どもを育てる考え方はこれからも変わりません。旧清沢小を会場とした自治会連合会主催の秋祭りは続くと聞いています。学校がなくなっても住民同士で集まる機会が残ればつながりが維持できます。子どもたちが地域に触れる場面をつくっていけば、保護者も地域に入っていくことになります。無理なく、反感なく、できるところから始め、継続していくことが大事です。統合後も保護者の間で清沢地区への関心が薄れないように、まずは自分から動いていきたいです」

 学校統廃合の後、地域活性化についてはどう考えていますか。
 「移住の促進も一つの対策になりますが、大人になって、いったん清沢地区を離れた、自分と同じ世代に清沢に再び戻ってきてほしいと思います。戻ってきて清沢に根付いて自治会活動を支えてもらうために、地域として何ができるかを考えたいです。2028年度に施設一体型の小中一貫校となる新しい学校がそのきっかけにならないでしょうか。特色ある新学校を核にした地域づくりを進められれば、彼らがこの地域で子どもを育てたいと思って、ふるさとにUターンしてくる理由にもなります。保護者や地域住民としても新たな学校づくりに協力していきたいです」

 残された課題は。
 「統合される学校の児童の中には長距離通学となる子もいます。市教委にはスクールバスを要望しましたが、今春の統合では見送られ、児童は路線バスで登下校することになりました。路線バスは本数が少なくて学校の日課と時間帯が合わなかったり、バス停から自宅までの距離が遠くて児童の安全性確保に課題があったりします。スクールバスを導入すれば、校外の地域学習に出かける際にも利用できるメリットもあるので、今後も導入を働きかけていきたいと思います」

 わだ・きぬこ 静岡市葵区清沢地区出身。旧清沢小閉校時の2023年度にPTA会長を務め、現在は統合した中藁科小のPTA副会長。市内の情報系企業に勤めながら子育てをしていて、20歳の長男と小学4年の長女がいる。42歳。

統合後の中藁科小 子ども見守る 新たなつながり photo03 旧清沢小や旧水見色小の住民もボランティアとして参加した放課後子ども教室=11日、静岡市葵区の中藁科小
 静岡市葵区藁科川上流域の学校統廃合を巡っては、旧清沢小と旧水見色小を統合した“新生”中藁科小が4月にスタートした。目玉は放課後の活動に地域のボランティアが参加し、路線バスで通学する旧清沢小や旧水見色小の児童を支える仕組み。昨年度まで違う学区だった住民同士が協力し、つながりの接点になりそうだ。同校は地域と連携した学校運営を見据えていて、その第一歩にもなる。
 学校日課が終了してから路線バス到着までの待ち時間に子どもたちの「居場所」として地域ボランティアによる放課後子ども教室を活用。統合された学区の住民を含む地域ボランティアが毎日3人程度、子どもの遊びを見守る。学区が広がったため児童が帰宅後に子どもだけで遊びに出かけるのが難しくなるため、子ども同士で放課後に遊ぶ機会をつくる狙いもある。
 旧清沢小で子ども教室の運営に携わってきた滝下喜美子さん(54)が4月から中藁科小の子ども教室のコーディネーターに就き、昨年度まで中藁科小のコーディネーターだった永野幾美さん(70)がサポートに回る。滝下さんと永野さんは「子どもに社会性が育まれ、ボランティアの大人同士のつながりも生まれてくる。旧清沢小も旧水見色小も関係ない」と説明する。旧水見色小から中藁科小に子どもが通うことになった保護者の勝山夏子さん(45)も「(元の)中藁科小の関係者だけに負担させるわけにはいかない」と運営を側面支援する考えだ。

ご意見お寄せください  少子化が加速する中で、あなたは学校の統廃合と地域の関係について、どう考えますか。統合後も活気あふれる地域を維持するためには何が必要でしょうか。さまざまな観点からの投稿をお待ちしています。お住まいの市町名、氏名(ペンネーム可)、年齢(年代)、連絡先を明記し、〒422-8670(住所不要)静岡新聞社編集局「賛否万論」係、<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください(最大400字程度)。紙幅の都合上、編集させてもらう場合があります。

 次回は同じテーマで、先行して小中学校が統合された静岡市清水区両河内地区の住民のインタビューを紹介します。

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