テーマ : 教育・子育て

不登校「誰かとつながる場」を メタバース登校で出席認定/空き教室を支援ルームに 埼玉・戸田市の先進事例

 不登校の児童生徒が、年々増え続けている。文部科学省の10月の調査発表によると、2022年度は全国で29万人(前年度比22%増)と過去最多を更新。静岡県内では17%増の9640人となり、小学校での増加傾向が強かった。不登校をめぐっては「問題行動ではない」との社会理解がつくられつつあるものの、居場所の選択肢は少ないのが現状だ。「学校は行けるけれど、教室までは難しい」「学校以外の場所が良い」「自宅に居たい」―。さまざまな思いを抱えた子どもたちが、どこにいても「誰か」とつながれるよう、多様な居場所の選択肢を提供している埼玉県戸田市の取り組みを取材した。

 パソコン上に昔のテレビゲームのような画面が広がる。中に「教室」があり、自分で選んだアバターで入室するとオンライン通話が始まって、スタッフや仲間と交流したり、自分に合った課題の提供を受けて基礎科目の勉強をしたりする。
 学校は、自宅からインターネット上に設けられた仮装空間「メタバース」だ。不登校支援に取り組む東京都の認定NPO法人「カタリバ」が運営し、同市は昨年秋から導入した。小中学生10人ほどが固定的に使っている。自宅で利用する子が多く、しばらくして、居場所をリアルな学び場に変えたがる子もみられるなど、「つながること」の成果も現れている。
 同市では、児童生徒の活動状況に関する報告などをもとに、各校の校長裁量でメタバース登校を出席として認めている。国の仕組みでは、オンライン授業を出席認定することはできるが、全国での事例は限られているのが現状だ。自宅を出て学校に行けないことがつらく、自己嫌悪を悪化させがちな子どもたちにとっては、一つの「登校の形」として認められたことは大きな安心感につながっているという。
 戸田市は人口13万人、平均年齢40歳ほどの全国屈指の若い街。小中学校は18校ある。全国の傾向同様に不登校の児童生徒が増えていることを受け、市は22年度から、居場所の多様化に本腰を入れている。年度当初、試行的に小学区数校の空き教室をサポートルームとし、日中の児童の居場所としたところ、長期欠席中の子が予想以上に登校してくるように。「自宅以外の居場所」を求めている子が確実にいることに手応えを感じた市はすぐに補正予算を講じ、全校に展開した。
 サポートルームの指導は支援員が担当するが、週に1日は支援員を置かずに学校の教員が自前で支援に入るようにし、学校とサポートルームを分離しないような連携体制を取った。クラスに戻すための場としないとの共通認識も設けた。子どもの拠点として定着するにつれ、そこから「自分のクラスのオンライン授業を受けたい」と言う子、「プリントの採点をしてもらう」と教室に行く子も現れるようになった。
 同市では学校外の居場所の利用者枠の拡大などほかにもさまざまな取り組みを展開する。市教委の伊藤和三さん(同市立教育センター所長)は「学校と子どものつながりを絶たないよう、これまで支援が届いていないところまで届かせたかった。それぞれの居場所が分離せず、有機的に結びついていることが、子どもの安心感につながっている」と話す。
 (社会部・大須賀伸江)

「誰とも接点ない子」増

 国の不登校調査では、学校に行かなくなった後に孤立が懸念される子が一定数みられ、割合も年々増えていることが分かっている。「どこにもつながっていない子」と学校がどのような接点を構築できるかが、今後の課題とされている。
 2022年度、学校側の把握ベースで「学校内外で相談や指導を受けていない児童生徒」は不登校者全体の38.2%に当たる11万4200人だった。90日以上の長期欠席者は約半数の5万9200人。長期欠席者は16万5600人いるので、約3人に1人はどこにもつながれていない計算になる。
 自宅でICTなどを利用した学習活動を出席扱いとされた児童生徒数は1万人で、不登校の子の30人に1人と少なく、当事者や保護者からは出席認定を求める声が上がっている。

いい茶0

教育・子育ての記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞