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【第1章】危機意識の低下⑤ 訓練の空白 影響じわり 顔の見える関係大事に【東海さん一家の防災日記 南海トラフ地震に備える/いのち守る 防災しずおか】

 いつ起きるか分からない南海トラフ地震に市民はどう備えるべきか。自治会・自主防災会会長の東海駿河[とうかいするが]さん(71)と妻の伊豆美[いずみ]さん(66)、長男の遠州[えんしゅう]さん(36)親子、長女の富士子[ふじこ]さん(33)の3世代をモデルに、自助、共助の取り組みを考える。
東海さん 避難訓練
 「久しぶりの訓練となりますが、皆さんの協力をよろしくお願いします」。拡声器で住民に呼びかける市役所職員の声が小学校の体育館に響いた。朝から猛暑となった今日は、9月1日の「防災の日」に合わせた総合防災訓練。避難所運営訓練には自主防災会長の東海駿河さんが案内役、妻の伊豆美さんが避難者役で参加した。
 「コロナ禍でまともな訓練なんて4年ぶりだな。いろいろ忘れてしまっているよ。近所のあの人は、しばらく見ないうちに腰がだいぶ曲がったね」。東海さんは隣にいる伊豆美さんに声をかけた。「あなたのいびきで寝不足なんだから、しっかりしてよね」と伊豆美さん。猛暑も相まって、妻は朝から機嫌が悪い。
 午前9時、南海トラフ巨大地震の発生を想定した訓練が始まった。体育館には住民ら50人近くが集まった。入り口に設けた受付には避難者が続々と集まってきた。久しぶりに顔を合わせる住民も。東海さんは避難者の体温や健康状態を確認して地区ごと案内した。「風邪症状の方はこっち」「○○地区の人はここで待って」と慌ただしく割り振る声が体育館に響く。
 受付から居住スペースまで通路は人が行き交って混雑した。導線の確保も必要だ。案内が落ち着き、東海さんもやっと一息。「やっぱりやらないと分からない。混乱する災害時はコミュニケーションが大事。日ごろから顔の見える関係にしておきたい」
 2人は休憩を挟み、自主防災会副会長の大池将斗さん(70)や地元医師会の医師らと防災倉庫の備蓄品をチェックした。「これは期限が切れているね」「こっちもだ」。応急救護で使用する消毒液や医薬品の有効期限が半年ほど過ぎていた。大池さんは「訓練の空白期間の影響は大きいな」と嘆いた。備蓄品や発電機などの資機材がいつでも使える状態か。「定期的な確認は欠かせないね」
 バタッ。訓練も終盤にさしかかる中、東海さんの後ろで、鈍い音が響いた。「伊豆美!」。振り返ると妻が倒れている。「イタタタタタ」。伊豆美さんはめまいでバランスを崩して倒れ込んだ。疲れと暑さで軽い脱水症状を起こしたようだった。
 「今日みたいな猛暑日に災害が起きたら、どうなってしまうのかな」と東海さん。豪雨と地震が重なったり、寝ている時に災害が発生したり…。「いろんな想定で訓練を繰り返し、体で覚えないと、いざという時に家族の命も守れない」。12月の地域防災訓練に向け「もっと多くの地域住民に参加を呼びかけよう」と東海さんは気を引き締めた。

 地域特性応じアレンジを 避難所マニュアル
 2022年度の県の自主防災組織実態調査で「避難所運営に不安がある」との回答は63・8%で前年度に比べて3・9%増加した。東海さんと同様に不安を持つ自主防が増えたのは「コロナ禍で十分な訓練ができていない影響と考えられる」(県危機情報課)。
避難所運営や地域防災活動のマニュアル。いずれも県のウェブサイトからも閲覧できる
 県は1997年に避難所運営マニュアルを作成し、訓練の実施を促している。東日本大震災以降、多様な視点での運営が求められるようになり、2018年にマニュアルを改定。男女共同参画の視点を盛り込み、要支援者やペット同行避難の対応についても細かい手順を追加記載した。本年度は感染症や風水害の対応、LGBTの考慮などを追加する予定だという。同課の油井里美課長は「避難所運営では考慮すべき点が多い。地域ごとに何を優先するのか、マニュアルを参考にアレンジしてほしい」と東海さんに助言した。
 東海さんが住む地区は高齢化が進み、ペットを飼っている世帯も多い。「妊婦や乳幼児が避難してくることもあるだろう」と東海さん。「避難所運営の方法を見直すなど、地域の防災力を向上させるため、もう一度真剣に考え直さないといけないな」と意気込んだ。

 「東海さん一家の防災日記」で取り上げてほしいテーマや、地域・家庭での特色ある活動、県や市町の防災行政への意見などを募集します。情報を基に取材をさせてもらう場合もあります。お住まいの市町名、氏名またはペンネーム、年齢、連絡先を明記し、〒422-8670(住所不要) 静岡新聞社編集局「東海さん一家の防災日記」係<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください。
 

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