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テーマ : お酒・ビール

芥川賞選考委員へ“幻の腕時計” 井上靖文学館(長泉)が確認 1958年だけ配布

 芥川賞(日本文学振興会主催)受賞者の正賞として授与されることで知られる懐中時計。このほかに、1958年の同賞選考委員のみに配布された“幻の腕時計”が存在していたことが19日までに、長泉町井上靖文学館の調べで分かった。

1958年の芥川賞選考委員のみに配布された腕時計の表
1958年の芥川賞選考委員のみに配布された腕時計の表
腕時計を展示している「井上靖と芥川賞」展=長泉町井上靖文学館
腕時計を展示している「井上靖と芥川賞」展=長泉町井上靖文学館
1958年の芥川賞選考委員のみに配布された腕時計の裏
1958年の芥川賞選考委員のみに配布された腕時計の裏
1958年の芥川賞選考委員のみに配布された腕時計の表
腕時計を展示している「井上靖と芥川賞」展=長泉町井上靖文学館
1958年の芥川賞選考委員のみに配布された腕時計の裏

 腕時計はロンジン製。2019年に個人から同館に寄贈された際にはすでにベルトがなく、裏面に「芥川賞委員 井上靖殿 日本文学振興会 1958」と刻まれていた。寄贈直後に同館の学芸員徳山加陽さんが振興会に問い合わせたが、「昭和30年代前半の資料がなく、配られた経緯は不明」と回答があった。
 徳山さんは企画展「井上靖と芥川賞」の準備を機に今春、1958年当時に芥川賞選考委員を務めた作家の記念館や記念室に関連資料の有無を問い合わせた。すると川端康成文学館(大阪府茨木市)から、文芸春秋72年6月特別号(「川端康成の死」特集)に掲載された沢野久雄氏の追悼文に、腕時計に関する記述があった、と連絡があった。
 追悼文によると、芥川賞に4回ノミネートされたが受賞に至らなかった沢野氏が「残念賞で時計がほしい」と新潮に寄稿したところ、川端から腕時計を譲り受けたという。時計の裏には「芥川賞委員 川端康成殿 日本文学振興会 1958」と彫り込まれていた。当時の選考委員宇野浩二氏が「受賞者ばかりが時計をもらっているが、僕ら委員も、もらってもいいんじゃないか」などと発言し、同振興会の事務所が入る文芸春秋社が初めて各委員に時計を贈ったと聞いたことについても書かれていた。
 振興会によると、58年以降、選考委員に時計が贈られた記録はない。現在、腕時計を所蔵する記念館は、井上靖文学館のみとみられる。徳山さんは「遺族も時計の存在は知らなかった。井上は太っ腹なので、川端と同じく人にあげてしまったのでは」と分析した。
 腕時計は9月12日までの企画展で、井上が同賞受賞時に授与された懐中時計(伊豆近代文学博物館所蔵)とともに展示している。
 (東部総局・菊地真生)

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