視力の差超えるツールに 触って遊ぶかるた製作 全盲作家とジンズが協力【スクランブル】
群馬県の郷土かるた「上毛かるた」を題材に、絵札に凹凸を付け、見える人と見えない人が一緒に遊べるかるたの製作が進んでいる。手がけるのは全盲の彫刻家三輪途道さん(57)が代表を務める一般社団法人「メノキ」(群馬県下仁田町)と眼鏡チェーン「JINS」を展開するジンズ。視力の差を乗り越え、多様な人の交流を生むツールにしようと意気込む。
9月下旬、同県中之条町で開かれた「みんなとつながる上毛かるた」の体験会。アイマスクを着けた2人が座って向かい合い、札が読まれると、畳に置かれた4枚の絵札の表面を手でじっくり触り、1枚を探し出す。
体験会は視覚障害のある人や海外からの参加者ら約30人でにぎわった。昨年弱視の診断を受けた群馬高専2年の高本陸斗さん(17)は「これなら誰とでも遊べる」と笑顔を見せた。
絵札は縦約10・5センチ、横約7センチで、スマートフォンぐらいの重さ。厚さ1センチほどの板に5ミリ程度の凹凸を付けている。絵札に触れ読み札を当てたり、2組並べて神経衰弱をしたりと遊び方は多彩だ。参加者は「自由に想像できる」「上毛かるたは物語があるから話題が広がる」と声を上げた。
特別支援教育を専攻する群馬大生が点字付き百人一首をヒントに発案した。三輪さんが上毛かるたの絵柄を触覚で分かりやすいようにデザインし、紙粘土で原型を作成。水性樹脂や石こうで群馬大生らが製作した。
札の一つ「理想の電化に電源群馬」は、上毛かるたでは水力発電ダムが描かれるが、電球の絵柄に変更。「ねぎとこんにゃく下仁田名産」には、絵札いっぱいにのびる大きなネギをあしらった。
三輪さんは木彫作家として30年近くキャリアを積み、2021年に難病の網膜色素変性症で失明した後も、触覚を頼りに粘土や漆を使って作品づくりを続けている。「手が目」となってから、物の形をより深く捉えられるようになったと話し、「互いの違いを知れば、世界がもっと豊かになる」と交流に取り組む。
そんな思いに共感したのが、群馬で創業したジンズだ。指先や手全体で何度も触り、対象物の質感や裏側まで確かめようとする三輪さんを見て、同社地域共生事業部の秋本真由美さん(47)は「視覚に頼る私たちは、見えているようで実はちゃんと見えていないのではないか」と感じた。同社の「いつもと世界が違って見える体験を提供する」との理念に通じると考え、21年末から協力を始めた。
かるたは今後改良し、美術館や教育現場での活用を目指す。中之条町で開催中の国際現代芸術祭「中之条ビエンナーレ」の会場で10月9日まで体験できる。