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テーマ : 牧之原市

送迎バス安全装置「あくまで補助」 人の目での確認徹底 義務化に現場の思い複雑【届かぬ声 子どもの現場は今】

 昨年9月に牧之原市で起きた送迎バス園児置き去り死事件を機に、幼稚園やこども園などで義務化された安全装置。国の点検結果によると、6月末時点の設置率は全国で55・1%、県内で62・8%にとどまる。国や県は早期の設置を促すとしているが、現場を訪ねると複雑な思いで義務化を受け入れつつ、人の目による確認を改めて徹底する保育者らの姿が見えてきた。

送迎バスの車内最後部に取り付けられた安全装置=14日、静岡市葵区の麻機幼稚園駐車場
送迎バスの車内最後部に取り付けられた安全装置=14日、静岡市葵区の麻機幼稚園駐車場


 「ピピピッ、ピピピッ」。7月中旬、静岡市葵区の麻機幼稚園駐車場。午前9時過ぎ、園児の送迎を終えたバスのエンジンが止まると、車内最後部から確認を促す安全装置の電子音が鳴り響いた。運転手の男性は忘れ物がないか、座席の下も含めて車内をくまなく見回した後、装置の停止スイッチを押した。「こうした作業の先にスイッチを押す行為があることを忘れてはいけない」。男性は装置の操作が目的化し、肝心の確認がおろそかになることがないよう自らに言い聞かせた。
 同園は6月中旬までに、保有する園バス全4台に安全装置を設置した。装置はエンジン停止後から4段階で音が変化し、十数分たっても停止されないと警笛が鳴る仕組み。高橋明人園長(62)は「あくまでも機械は補助」と強調し、「バスに限らず園児の所在確認は基本。誰がいて誰がいないのか、いないなら理由は何かを常に把握しなければ」と、園内の連絡にも手落ちがないよう気を配る。
 沼津市の認定こども園「原町幼稚園」は事件を受け、「確認済」と書かれた札を外から見えるようバス最後部の窓に掲げてきた。職員同士で注意力を高めてきただけに、国の義務化の号令には驚きと戸惑いがあったという。設置後も札の掲出を継続している。鶴谷主一園長(62)は「装置にヒューマンエラーを防ぐ効果はあるが、大事なのは職員の意識。意識を高めるのは園長の仕事」と気を引き締める。
 県中部のこども園園長は当初、安全装置の義務化に「『機械がなければ確認はできないよね』と言われているようで、国家資格を持つ者として屈辱だった」と胸中を明かす。県西部でこども園を運営する理事長は「複数の人の目で確認するシステムを構築する方が大切。基本的に装置は必要ないと思っているが、決まった以上は設置せざるを得ない」として、設置済みの他施設から情報を集めた上で最適な機器を取り付けるという。
 (「届かぬ声」取材班)

 <メモ>昨年9月5日、牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で園児の河本千奈ちゃん=当時(3)=が置き去りにされて死亡した事件を受け、国は置き去りを防ぐ安全装置の設置を全国の保育施設や幼稚園などに義務化した。対象は通園を目的とした3列以上の座席がある車両。エンジン停止後にセンサーが作動し、置き去りにされた園児がいれば警報が鳴る「自動検知式」と、車内の確認を促すアナウンスが流れる「降車時確認式」の2種類に大別される。国土交通省のガイドラインを満たした装置を各施設が購入して取り付ける。1台当たり17万5000円を上限に国が費用を補助する。

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