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テーマ : 牧之原市

幼児保育の要諦 安全管理何が足らぬ 検証委9月取りまとめへ【届かぬ声 子どもの現場は今⑳ 第4章/耳澄ます社会に①】

 牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」は1962年、洋裁学校の一室で産声を上げた。高度成長に伴う労働力確保のため、保育需要が高まった時代。智徳体三育の全人教育に努め、豊かな幼児の育成に当たる―。高らかに掲げた理想とともに歩んだ歴史は60年を超える。運動会で年長児が披露する鼓笛は、地域に知れ渡るほど伝統がある。

送迎バス置き去り事件を受け設置された検証委員会の初会合。原因や背景に迫る=2月、牧之原市役所
送迎バス置き去り事件を受け設置された検証委員会の初会合。原因や背景に迫る=2月、牧之原市役所

 そんな「名門」(地元住民)で送迎バスへの園児置き去り事件は起きた。園側は記者会見で、バス降車時の確認不足や担任らによる出欠確認不足を原因とした。関係者によると、バスの乗務員を外部委託したのは職員の意見を聞いた上での負担軽減策の一環だったが、安全面への不安は内部にくすぶっていたという。
 「年2回、園長と副園長との面談の機会を設け意見を吸い上げるようにしていた。アンケートなどで管理職は職員が日頃感じる疑問点を把握するようにしていた」―。同園を運営する榛原学園は5月下旬、静岡新聞の取材に書面でこう回答し、労働環境の改善に尽くしてきたことを強調した。
 ただ、結果的に重大事故を防ぐことができなかった。牧之原市が設置した検証委員会は、事件から1年となる9月のとりまとめを目指して検証作業を進めている。「子どもの命を守るために何が足りなかったのかに迫りたい」。委員長の永倉みゆき県立大短期大学部教授(64)は語る。
 事件当日。前園長が運転したバスには、亡くなった河本千奈ちゃん(当時3歳)を含め、園児6人が乗っていた。乗務員は外部の70代女性。永倉教授は「一般論」とした上で、「保育の専門性を理解する人が乗っていれば、日々の送迎の中で保育の視点から子どもたちにさまざまな気付きを与えられる。人と人とのつながりが生まれ、お互いに声をかけ合う空気もできる」と強調する。
 送迎バス内も保育の一環と捉えて保育の営みが分かる人を配置する-、少なくともその必要性について職場で丁寧に議論する責務が園の運営者にはあると、永倉教授は考えている。
 永倉教授が大切にしている言葉がある。〈幼児保育の要諦を一語に尽くすものがあれば、それは親切である。(中略)理論がよく分かりませんでといい、経験が足りませんでといい、気のきかない性分でという。その実は親切が足りなかったのではあるまいか。わたしの親切をあんなにも信じきっていてくれる子らに対して―〉。大正から昭和にかけて活躍した教育者で「日本の幼児教育の父」と呼ばれる、静岡市出身の倉橋惣三の言葉だ。
 千奈ちゃんも周りの大人の「親切」を信じ切っていたはずだった。
     ◇
 送迎バスへの園児置き去り事件を起こした牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」。安全管理にリーダーシップを発揮すべき前園長らに足りなかったものは何か、不適切な運営を見抜き、保育の質を高めるために存在する行政の制度や外部の目は機能したのか―。幼い命を守れなかった事件の深層に迫る。

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