あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 牧之原市

負担増す県の監査 運営の欠陥見抜けず 行政の指導、限界浮き彫り【届かぬ声 子どもの現場は今㉑ 第4章/耳澄ます社会に②】

 「園児の安全確保のための組織的な取り組みの責務を果たしているとはいえない」―。静岡県は2022年10月14日、牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」を運営する榛原学園に改善勧告を出した。厳しい言葉を並べて施設運営の不備を指摘し、「安全に子どもを受け入れ、送り届けるためにこういうことをしていくというマニュアルはある」とする園側の主張を否定した。

事件を受けて川崎幼稚園の特別監査に着手する県と牧之原市の担当者=2022年9月9日、同市静波
事件を受けて川崎幼稚園の特別監査に着手する県と牧之原市の担当者=2022年9月9日、同市静波

 特別監査は園のずさんな安全管理の実態をあぶり出した。一方で、事件前までの定期監査で問題が明るみに出ることはなく、改善勧告で認定した前園長の職務上の不作為や登降園管理の不備など重大な欠陥がいずれも見過ごされてきた。21年7月に福岡県中間市で発生した送迎バス置き去り死事件を機にした国の通知も園の体質を変える効果がなく、悲劇が繰り返された。
 県と政令指定都市は年1回以上、保育所への監査が児童福祉法で義務付けられている。認定こども園に対しても、国は関係法令と通知で年1回以上の実施に留意するよう求める。20人未満を預かる地域型保育事業は、市町村に監査の義務が課せられている。
 静岡県は21年11月に川崎幼稚園の監査を行ったが「当時は国の基準がなく、園児の所在確認など具体的な内容は監査の対象事項になっていなかった」(福祉指導課担当者)。川崎幼稚園の事件は行政による指導の限界を浮き彫りにした。
 そもそも監査の人手が足りないという問題がある。県によると、毎年の監査対象になる保育所や認定こども園は約400カ所。職員12人が2人一組で各園に足を運ぶ。監査項目は施設・設備の状況や処遇関係など数百に及び、新たに留意が必要な事項は増加の一途。23年度は、新たに始めた送迎バス保有園への抜き打ち監査や、事件の余波で前年度に実施できなかった社会福祉法人への監査が加わった。
 「川崎幼稚園の問題を監査で見抜くことは無理だっただろう。業務を全て細分化して危機をあぶり出し、リスト化するのは不可能だ」。20年間にわたって保育園長を務めた経験を持つ東京都市大人間科学部の園田巌准教授(62)は、負担が増す県の監査の限界を指摘する。監査の主な着眼点は、施設の運営が法令に準拠した最低基準を維持しているかどうか。行政による監査に依存する現状を危惧し、園による自己評価と専門機関による第三者評価の組み合わせが保育の質向上に不可欠と訴える。
 待機児童問題を背景に、国は子ども・子育て支援新制度で受け皿になる保育施設整備を推進した。国策のしわ寄せは深刻な保育士不足を招き、同時に監査業務を圧迫した。職員の多忙感は増し続けている。

▶ 追っかけ通知メールを受信する

牧之原市の記事一覧

他の追っかけを読む