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テーマ : 牧之原市

制度拡充 国後ろ向き「保育先進国、見習うべき」【届かぬ声 子どもの現場は今㉓ 第4章 耳澄ます社会に/第三者評価④】

 「保育の評価制度は課題が多い。ずいぶん前から問題提起してきたが…」

子ども・子育て支援新制度に対応して認定こども園に移行した川崎幼稚園。こども園の保育を評価する制度構築は道半ばだ=2022年9月、牧之原市
子ども・子育て支援新制度に対応して認定こども園に移行した川崎幼稚園。こども園の保育を評価する制度構築は道半ばだ=2022年9月、牧之原市

 日本総研上席主任研究員の池本美香さん(57)はそう言ってため息をついた。国が2015年度に導入した子ども・子育て支援新制度が始まる前から、施設が専門機関の評価を受ける「受審」が努力義務にとどまることや、評価制度の在り方に関する議論が低調なことを指摘してきた。変わらぬ現状に嘆きは深い。
 国が認可保育所を対象に2004年に導入した第三者評価制度は、保育の質向上に効果があるとされる。受審し、実感している県内の施設も多い。ただ、努力義務どまり。認定こども園は義務になっていないばかりでなく、国はこども園向けの評価基準を作っていない。各園は保育園向けの第三者評価を準用したり、幼稚園向けに文部科学省が示す学校評価ガイドラインを参照したりしている。
 親が働いているかどうかを問わず子どもを預けることができる―。国はこうした点を強調し、財政支援を手厚くして幼稚園と保育園の機能を併せ持ったこども園を拡充してきた。全国で急増し、県内でも支援新制度開始前の14年度に23施設だったこども園は22年度に341施設と、わずか8年ほどで約15倍になった。
 これほど増えたこども園向けの評価基準を国は作らないのか。厚生労働省福祉基盤課の担当者は「関係者の意見を収集中で、こども家庭庁と協議している」と言葉を濁す。6月2日、全国社会福祉協議会が都内で開いた第三者評価事業普及協議会。本県の担当者が同様の質問をしたところ、厚労省は「現在のところ予定はない」と答えたという。
 送迎バスへの置き去り事件を起こした牧之原市の「川崎幼稚園」は新制度に対応して15年度、認定こども園に移行した。関係者によると、幼保の文化の違いから乳児部と幼児部とで意思疎通が難しい雰囲気があったとされる。県東部の小規模認可保育所では、園長の高圧的な行為や言動で保育士が相次ぎ退職した。「施設運営や安全管理に疑問を感じても言い出せない保育者はたくさんいる」。県西部の30代保育士は語る。
 保育園向けの第三者評価は、施設の理念や施設長の責務、働きやすい環境づくり、安全管理などさまざまな評価項目を全職員で話し合うことが求められる。保護者アンケートもある。園の運営に多様な意見が反映されやすくなる。国は、そうした環境整備の拡充には後ろ向きだ。
 池本さんによると、ニュージーランドは1980年代、全ての保育施設を同一省庁が所管し、国が評価受審を全施設に義務付けた。英国にも同様の仕組みがある。「日本も見習うべきだ。30年以上遅れている」。池本さんはそう指摘する。

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