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テーマ : 牧之原市

保育士の叫びに心寄せ 相談窓口、匿名で深夜に届くことも... “より良い職場” 実現模索【届かぬ声 子どもの現場は今㉕/第4章 耳澄ます社会に⑥完】

 気になる相談があった。既定の退勤時間にタイムカードを打刻するが、その後も業務を続けるのが常態化している―との内容。同僚も皆当たり前のように打刻後の残業をこなすため、疑問を口にできず、もやもやした感情を募らせる保育士の悩みがつづられていた。

保育者から現場の実情をヒアリングする連合静岡の職員=6月上旬、県西部の認定こども園
保育者から現場の実情をヒアリングする連合静岡の職員=6月上旬、県西部の認定こども園

 県のしずおか保育士・保育所支援センターが交流サイト(SNS)で受け付ける「LINE無料相談」には、処遇や人間関係、ハラスメントなど多様な相談が寄せられる。深夜にも届く匿名のメッセージから、理想を抱いて夢をかなえたはずが業界の慣習と社会の価値観とのはざまで揺れる保育士たちの姿が浮かぶ。
 「相手は大ごとになることを望んでいない。顔が見えない分、気軽に打ち明けてくれる」。センターの運営を担う県社会福祉協議会の村松奈々人材課長は思いを寄せる。法令違反が分かれば電話相談や窓口対応に切り替えて行政や専門家につなぐ手だてはあるが、所属園を尋ねるとやりとりが途絶えることはしばしば。周囲に迷惑が及ぶ可能性を考えて物おじする心の動きを読み取っている。
 相談しやすい職場づくりは保育業界の普遍的なテーマ。バス置き去り事件が起きた牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の関係者は事件後、「意思疎通や要望を伝えることは難しい状況だった」と証言した。川崎幼稚園に限らない。静岡新聞社が実施したアンケートでも、保育士から「休憩時間がなくサービス残業が横行している。声を上げるとにらまれて働きづらくなる」(30代女性)、「下っ端なので思ったことや変えたいことがあっても自分には難しい」(20代女性)などと多くの苦悩が届いた。
 保育現場で働く人たちはストレスにさらされる半面、悩みを話す場や雇用者と待遇、職場環境の改善を交渉する機会に乏しい。そんな課題を踏まえ、連合静岡が労働環境の改善支援に動き出した。保育施設に子どもを預ける組合員を対象に緊急調査を実施し、負担軽減のために配置基準の見直しが必要などとする保護者意見をまとめた。各地の園で職員へのヒアリングも続けている。
 連合静岡によると、構成団体に保育の産業別組織はなく、1人でも加入できる労働組合「連合静岡ユニオン」にも保育関係者はいない。調査を主導する内山千穂副事務局長は「保育者にかかる負荷の重さを想像しながらも、これまでは直接、話を聞いてこなかった。相談窓口の周知不足もあった」として支援を強める考えを示す。
 牧之原市の事件や県内外で発覚した不適切保育を受けて業界に対する社会の関心は高まり、行政や労働団体などが差し伸べる支援の手は増えた。一方で、業務に追われる肝心の保育者に認知されていない現実がある。声なき声に耳を澄ます社会の試みは道半ばだ。(「届かぬ声」取材班)

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