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テーマ : 牧之原市

「娘のため」貫く本音 傷癒えぬ遺族【届かぬ声 子どもの現場は今 牧之原バス置き去り1年㊤】

 <皆さん、どうかもう一度目を向けて下さい><安全装置義務化で収束した娘の死を、生きた証を、遺族の気持ちを、多くの方に知って欲しいのです>

スマートフォンを手にする河本千奈ちゃんの父親。SNSで日々の思いなどを発信する=8月下旬、牧之原市
スマートフォンを手にする河本千奈ちゃんの父親。SNSで日々の思いなどを発信する=8月下旬、牧之原市

 3月上旬、ツイッター(現X)に悲痛な叫びが刻まれた。投稿者は半年前の2022年9月5日、送迎バスへの置き去り事件で長女の河本千奈ちゃん=当時(3)=を失った父親(39)だった。
 娘亡き後の生活は、とてつもなく苦しく、そして長かった。社会からの孤立感も日に日に強まった。事件を起こした認定こども園は約1カ月で再開し、日常を取り戻しているのに。「これでいいのか」。ずさんな安全管理が招いた事件の詳しい原因を明らかにし、自分たち遺族への誠意が見えない対応を世の中に問いたい-。そんな一心で、全く縁のなかったSNSの世界に足を踏み入れた。
 <あの事件がなかったら、千奈はどんなふうに成長していたかを妻と考える>(3月4日)、<(園側が)面談の内容をTwitterで発信しないで欲しいと主張してきた>(5月8日)、<送り火をするとき妻の前で泣いてしまった。またお別れしないといけないのかと考えたら込み上げてきた>(8月16日)-。癒えぬ悲しみも、こども園や運営法人への憤りも包み隠さずつづってきた。
 貫くのは常に本音。「口では『二度と起こらないようにしてほしい』と話しても、それは建前に過ぎないと思う。子どもを亡くした親は、加害者が本当に憎い。『何で自分たちの子が?』が本音であるはず」
 千奈ちゃんや家族に対する心ない書き込みには毅然(きぜん)と対応し、「自分には声を上げることしかできない」との思いで発信を続けてきた。フォロワーは2万人を上回った。
 8月下旬には報道陣の取材に応じた。自身に向けられた多くのカメラに戸惑うこともなく、一つ一つの質問に理路整然と言葉を紡いだ。「本当はそこらのお父さんと変わらないです。子どもとじゃれ合ったり、妻にちょっかいを出して怒られたり」。そんな“普通のお父さん”の人生が激変した。こども園や法人関係者に直接会って原因と責任を追及し、「廃園」の約束を守るよう強く迫り続ける。
 <全て娘の千奈のためです。今でも何かしてあげられる事はないのか、してあげられなかった事は何なのかを考えて行動しているだけです>(5月1日)
 あの日から間もなく1年。きょうも父親と妻は娘が大好きだった麦茶とご飯を遺影に供え、語り掛ける。「助けてあげられなくてごめんなさい」と。
     ◇ 
 牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で河本千奈ちゃんが送迎バスに置き去りにされ、熱中症で亡くなった事件は5日で1年を迎える。遺族や事件捜査、川崎幼稚園の現状を探った。
 (「届かぬ声」取材班)

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