テーマ : 気象・災害

【第3章】半割れ発生(前編)④完 四国でM8 3日目、「通常通り生活」難しく【東海さん一家の防災日記 南海トラフ地震に備える/いのち守る 防災しずおか】

 最大でマグニチュード(M)9級の巨大災害が想定される南海トラフ地震で最も懸念されるケースの一つは、M8級の大地震が続けざまに起こる「半割れケース」だ。同ケースが発生すると社会はどのような状況になるのか。自主防災会会長の東海駿河さん(71)や長男で会社員の遠州さん(36)一家をモデルに、住民が直面する課題を考える。「通常通り生活」難しく

 「それじゃ行ってくる」「気を付けて。なるべく早く帰ってきてね」
 四国沖でM8・0の地震が発生し、気象庁が後発地震に警戒を呼びかける「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」を発表して3日目の朝。東海三保さん(34)は不安な気持ちをこらえ、避難先から会社に出勤する夫の遠州さんを見送った。地震発生後の主な動き(架空のシナリオ)
 義父の駿河さんも、避難所開設を見据えた打ち合わせのため自主防災会の役員会に出かけた。遠州さん一家が身を寄せる駿河さん宅の裏山の斜面はやや急で、地震で崩れないか心配だ。「みんなが離れ離れの時だけは地震が起きないで」。三保さんは駿河さんの愛犬すんぴーを抱きながら祈った。
 報道やSNSでは、震源に近く、県庁所在地でもある高知市、徳島市、和歌山市の深刻な被害が伝えられている。古い建物は軒並み倒れ、津波や土砂崩れで道路や鉄道も寸断されたようだ。津波は大阪市の繁華街・梅田の地下街や神戸市の中心部にまで浸水したらしい。政府は「死者・安否不明者数は少なくとも万単位。東日本大震災の倍以上になる可能性もある」と発表した。
 四国・関西に続いて東海地方まで被災すれば、日本は自力で再建が困難な状況に陥る。「この国を維持するためには社会と経済を回し続けることが必要。被災地以外はなるべく通常通りの生活を」と官房長官は国民に訴えた。救助活動と被災地復旧を同時に進めていくため、それを支える資材の生産や物流の継続が生命線だと強調した。
 一方、静岡県内は最大震度4で揺れによる建物被害はほぼなかったが、津波浸水想定区域の一部は1メートル未満の浸水被害を受けた。三保さんのパート先も含め同区域内の会社や店舗、学校などの多くは今後の津波リスクを考えて当面休業の措置を取ったのに対し、同区域外の会社や学校は基本的に通常通り運営を続けた。
 遠州さん一家の自宅は同区域内にあり、津波のリスクを避けるため駿河さん宅に避難した。沿岸部から離れたものの四国付近での余震により、緊急地震速報の警報音が鳴るたび三保さんと子どもたちは身構え、気の休まらない状況が続いた。
 駿河さんの妻伊豆美さん(66)も「通常通りに生活と言われても、いつ震度7の大地震が来るか分からない。外出もしにくいわね」とため息をついた。伊豆美さんは家具の固定や食器棚、本棚の散乱防止と整理に努め、三保さんは近所の店を回って備蓄食料や防災用品の買い足しを続けた。

Q&A 南海トラフ地震被害想定
  南海トラフ地震の発生時に県内で想定される被害は。
  2013年発表の県第4次地震被害想定によると、M9程度の最大クラスの地震(レベル2)では県内は全面積の7割以上が震度6弱~7の揺れに見舞われ、下田市で海抜33メートル、浜松市南区で同15メートルなどの津波高を予想した。県は昨年6月、津波避難施設の整備などを考慮して犠牲者数を見直し、8割減の約2万2000人とした。
  半割れケースを前提にした被害想定はあるか。
  半割れとは想定震源域の西半分か東半分でM8級地震が起きた場合を指し、もう片側でも時間差で大地震が起きる可能性が普段より高まる。時間差での東西連動を前提とした被害想定はまだなく、同地震の基本計画改定に向けた国のワーキンググループが今後公表する予定。
  東日本大震災と南海トラフ地震の被害の違いは。
  東日本大震災は震源が陸から100キロ以上離れ、地震の揺れよりも津波の被害が中心だった。一方、南海トラフ地震は想定震源域が陸地の直下にかかっているため、津波被害だけでなく内陸部での住宅倒壊も多数発生するとみられる。

 ◇この物語は南海トラフ地震の幅広い発生パターンの一例を描いた架空のシナリオです。実際には全く異なる発生状況もあり得ます。
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