テーマ : 気象・災害

短期の海洋酸性化頻発 日本沿岸、有機物分解 貝類への影響懸念

 海水中の二酸化炭素(CO2)濃度が上昇して酸性度が強まる海洋酸性化について、国立研究開発法人水産研究・教育機構などのチームが「日本の沿岸では10日程度の短期間の酸性化が頻繁に発生している」と発表した。地球規模で進行する酸性化と、陸地由来の有機物の分解で起こる局所的な酸性化が複合しているという。チームは「酸性化の程度は貝類の幼生に異常が現れるレベル」と警鐘を鳴らしている。

岡山県備前市日生町の海で研究チームが採取したマガキの幼生(NPO法人里海づくり研究会議提供)
岡山県備前市日生町の海で研究チームが採取したマガキの幼生(NPO法人里海づくり研究会議提供)
エゾアワビの正常な幼生(左)と、酸性の海水で飼育して殻に異常が起きた幼生(水産研究・教育機構提供)
エゾアワビの正常な幼生(左)と、酸性の海水で飼育して殻に異常が起きた幼生(水産研究・教育機構提供)
研究チームが海洋酸性化の調査をした岡山県備前市日生町のマガキ養殖場=2020年8月(日生町漁協提供)
研究チームが海洋酸性化の調査をした岡山県備前市日生町のマガキ養殖場=2020年8月(日生町漁協提供)
日本沿岸で海洋酸性化が起きる仕組み
日本沿岸で海洋酸性化が起きる仕組み
岡山県備前市日生町の海で研究チームが採取したマガキの幼生(NPO法人里海づくり研究会議提供)
エゾアワビの正常な幼生(左)と、酸性の海水で飼育して殻に異常が起きた幼生(水産研究・教育機構提供)
研究チームが海洋酸性化の調査をした岡山県備前市日生町のマガキ養殖場=2020年8月(日生町漁協提供)
日本沿岸で海洋酸性化が起きる仕組み

 現在の海水は弱アルカリ性で、酸性度の指標となる水素イオン指数(pH、7は中性、7未満は酸性)は海面で約8・1を示す。CO2が溶け込むと海水は酸性側に近づいてpHが低下する。この現象が海洋酸性化だ。酸性化が進むと、貝類やサンゴのような炭酸カルシウムで殻や骨格を形成する生物の成長が妨げられ、生態系に悪影響を与える可能性がある。
 日本近海で酸性化がじわじわ進行していることは既に観測されていた。気象庁によると、10年でpHが約0・02ずつ低下しており、世界平均と同じペースだという。
 チームは、より短期的な変動を把握するため2020~21年、カキ養殖が盛んな宮城県南三陸町や広島県廿日市市などの沿岸5カ所を調査した。
 海水のpHを継続的に測定した結果、5カ所の年平均値は8~8・1だが、10日程度の短期間、pHが平均値を大きく外れて低下する現象が年に数回~十数回発生していた。 …◆…  瀬戸内海に面し、マガキの養殖が盛んな岡山県備前市日生町。養殖いかだに取り付けた測定装置は21年9月6日、調査期間中で最も低いpH7・3を記録した。海水温や塩分濃度を踏まえると、マガキの幼生が殻を作るのが困難な水質が12日間続いた。
 廿日市市では、同年8月15日にpH7・36を観測。殻を作りにくい水質は11日間続いた。同じ日に南三陸町ではpH7・73となり、同様の水質が3日間続いた。
 ただ、チームが備前市日生町でマガキの幼生約千個を調べたところ、異常な個体は見つからなかった。水研機構の小埜恒夫主幹研究員は「マガキの幼生が酸性化した海水をうまく避けているのかどうかは分からないが、(pHの数値は)黄色信号だ」と話す。 …◆…  短期間の酸性化の原因を探るためpHが低下した時期を調べると、台風の通過などと重なっており、降雨が関係していることが分かった。
 陸地にある工場の排水や農地の泥などに含まれる有機物が雨水とともに海に流れ込むと、海のバクテリア(細菌)の活動が活発化して有機物を分解する。その際、多量のCO2が発生することで、酸性化が引き起こされたという。陸地から流出する有機物の量が少ない沿岸では、pHの低下幅が小さかった。
 小埜さんは「地球規模の海洋酸性化にはCO2の排出量を減らすしか手だてがないが、目の前で起きている沿岸の酸性化には対策が打てる」と強調する。河口域に藻場や干潟を造成して河川から流れてくる有機物をダムのように捕集できれば、沿岸での強い酸性化を抑制できると考えている。
 継続的な監視必要  地球規模の海洋酸性化は、人間が産業革命(18~19世紀)以降に大気中に排出した二酸化炭素(CO2)を吸収することで進んでいる。海水の水素イオン指数(pH)は現状8・1程度だが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、今世紀末には現在より0・3低下する可能性がある。酸性化が進行すると、海洋のCO2を吸収する能力が落ちて地球温暖化に拍車をかけたり、海の生態系に悪影響が出て漁業や観光業に打撃を与えたりする恐れがある。海洋の継続的な監視が求められている。

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