テーマ : 気象・災害

大地震のたびに発生 能登でも広域に影響 液状化 遅れる対策 避難妨げにも

 大規模地震が発生するたび、液状化による被害が繰り返されている。1月の能登半島地震でも震源となった石川県だけでなく、近県でも道路がうねり、家屋が傾いた光景が見られた。広域でライフラインを破壊し、避難の妨げにもなる。影響は大きいが、地震の揺れや津波と比べ対策が遅れているのが現状だ。

液状化の影響でめくれたアスファルトと傾いた電柱=3月12日、石川県内灘町
液状化の影響でめくれたアスファルトと傾いた電柱=3月12日、石川県内灘町
液状化の仕組み
液状化の仕組み
液状化被害の住民説明会で質問する住民の女性(右)=3月17日、石川県内灘町
液状化被害の住民説明会で質問する住民の女性(右)=3月17日、石川県内灘町
液状化の影響でめくれたアスファルトと傾いた電柱=3月12日、石川県内灘町
液状化の仕組み
液状化被害の住民説明会で質問する住民の女性(右)=3月17日、石川県内灘町

 液状化は、支え合っていた砂粒子が強い揺れによってばらばらになり液体のようになる現象。地表に水や砂が噴出して地盤が変形し、重い建物は沈み、中が空洞で軽いマンホールは浮き上がる。地下水位が高く、締まりがゆるい砂質で起きやすく、地形としては埋め立て地や干拓地、かつて川や沼だった場所が当てはまる。
 国土交通省によると、液状化が広く認識され、メカニズムの解明や対策が進むきっかけとなったのは1964年の新潟地震。新潟市では鉄筋コンクリートなどの大型構造物が崩れ、4階建てアパートがそのまま傾いた。
 95年の阪神大震災では神戸港が壊滅的となり、2011年の東日本大震災では震源から離れた関東の埋め立て地で大規模な被害が発生し、上下水道などライフラインが寸断された。
 道路の亀裂やぬかるみが生じる液状化は、津波からの避難の妨げにもなる。南海トラフ巨大地震が懸念される高知県が実施した実験では、液状化すると通常と比べて健常者は7割、視覚障害者は6割まで避難速度が落ちた。県は21年、市町村向けの手引を作成。液状化の可能性のある重要な避難路を抽出して、津波の到達時間が早い場所や、高齢者ら要支援者が多い地域を優先し、ハードだけでなくソフトも組み合わせ対策する必要があるとした。
 液状化を防止するには、地下水を抜いたり、地中に壁を配置して地盤を改良したりする工法などがある。ただ、時間と費用がかかり、被害後も住民の同意が難航するケースが多く、国交省によると、予防のため国費を使って事前の対策を実施したところはない。
 自治体による液状化のハザードマップ作成も、洪水や津波など他の災害と比べ進んでいない。人的被害が比較的少ないことや作成が任意であることから、自治体にとって優先順位が低いとみられる。国交省の担当者は「今回の能登半島地震の被害を見て、起こり得る災害だと再認識した人も多いと思う。それを踏まえ、アクションを起こしてほしい」と語った。
被災地の千葉や石川 工事費用 再発防止の壁に 住民合意形成 難しく  能登半島地震では石川県、新潟県など日本海側の広範囲に液状化の被害が出た。復興には住宅再建だけでなく、道路をどの高さに整備するか、液状化しにくいよう地盤改良をどうするかといった地域全体の対策に住民の合意が欠かせない。ただ、多額の費用負担という壁もあり、能登半島地震では、国が支援拡充を決めた。過去の被災地と、石川県内灘町を訪ねた。
 2011年の東日本大震災で大規模な液状化被害を受けた千葉県浦安市。ホームから東京ディズニーランド(TDL)を望むJR舞浜駅の北東に住民合意の難しさを示す「現実」がある。
 市は震災後、再発を防ぐために格子状の壁を地中に埋める対策工事を決めた。しかし、工事を計画した16地区約4100戸のうち、住民全員が合意して実施できたのは東野3丁目地区の2ブロック約30戸のみ。1戸あたり150万~200万円ほどとされた住民の費用負担がネックとなり、ほとんどが合意に達せず未実施に終わった。
 工事をした隣のブロックに住む70代男性は当時、合意を呼びかけたものの、強硬に反対する住民を説得できなかった。見た目は変わらないが、道路を挟んで地盤に大きな違いができた。「自分の家だけ直しても、上下水道などはまた被害が出る。それを防ぐために、地区全体でやった方がいいと思ったが…」
 石川県内灘町は、金沢市中心部から車で20~30分の古くからあるベッドタウンだ。被害が大きかった地域では、住宅が傾いたり基礎に亀裂が入ったりしており、道路が沈んで周囲との間に段差ができた場所も目立つ。高齢化率が高く、住民の多くが金沢市のアパートなどに避難し、住宅街はひっそりと静まりかえる。
 3月17日、地震後初めて住民説明会が開かれた。町側は国の調査や住民の意見を踏まえて対策を決める方針を示したものの、具体策を示すには時間がかかりそうだ。町の情報発信が不十分なことや復興のスケジュールが見えないことに厳しい声が相次いだ。「将来のビジョンを示してください」という住民の切実な言葉に拍手がわき起こる。
 地域の将来を危ぶむ声も上がる。「役場の動きが遅い。高齢者にとっては家の修理、再建だけでも負担。追加費用を払うより、戻らないことを選ぶ人も多いだろう」。片付けのために自宅に戻った男性(72)は半ば諦めたように話した。
能登被害 熊本と阪神超え 南海トラフさらに大きく  能登半島地震では液状化被害が石川、富山、新潟、福井の4県32市町村に広がり、3月22日時点で2013カ所に上ることが、防災科学技術研究所の先名重樹主任専門研究員の調査で判明した。阪神大震災の1266カ所や熊本地震の1890カ所を上回っている。
 自治体や交流サイト(SNS)の被害情報を基に、現地で土砂や水が地表にあふれ出る「噴砂」や「噴水」を確認し250メートル四方ごとに1カ所と数えた。
 能登は範囲も広域で、震源から福井県坂井市が約180キロ、新潟市中央区が約170キロ離れている。自治体別では石川県七尾市が398カ所と最多で、同県珠洲市の217カ所、同県輪島市の171カ所、新潟市の154カ所が続く。
 被害を受けたのは、石川県では1891年の濃尾地震、富山県では1858年の飛越地震、新潟県では1964年の新潟地震など過去の地震で液状化した地域と重なった。先名氏は「対策をしなければ、何度も繰り返す」と指摘。過去に液状化したリスクが高い場所と知らずに新たに住宅を建てて、被害に遭ったとみられるケースもあった。
 先名氏によると、液状化を引き起こす揺れの大きさは震度5強程度以上。海溝型の地震は断層型よりも強く揺れる地域が広がり、東日本大震災は被害が8680カ所に上った。
 先名氏は「南海トラフ巨大地震は、東日本大震災より揺れが大きく継続時間も長くなるため、被害が格段に大きくなってしまうのではないか」と予測している。

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