テーマ : 気象・災害

関連死防ぐ広域避難必要 弁護士/津久井進さん【能登地震 研究者や経験者 被災地へメッセージ】

 甚大な被害をもたらした能登半島地震。直面する課題にどう対応すればいいのか。これまでの国内災害で、長い間奮闘してきた研究者や市民らが、それぞれの教訓や今回の被災地へのメッセージを語った。

津久井進さん
津久井進さん

 能登半島地震では、避難生活による体調悪化などで亡くなる「災害関連死」が懸念されている。この概念が生まれたのが1995年の阪神大震災だった。兵庫県弁護士会の津久井進弁護士は今回、早い段階から関連死防止に向け広域避難の必要性を提言した。建物の損壊状況を唯一の指標とする罹災(りさい)証明についても抜本的な見直しを迫る。
     ◇
 阪神大震災の当初は関連死という言葉こそありませんでしたが「地震がなければ、このような亡くなり方はなかった」という事例が多数ありました。災害に起因する死亡として認め、災害弔慰金を遺族にお支払いしようと行政や関係者が一生懸命議論していました。
 能登半島地震の直後から広域避難の必要性を訴えました。真冬でインフラが止まり、道路は寸断、支援者が入れない。放置すれば関連死が相次ぐのは明らかでした。
 石川県は一時的な受け入れ先の「1・5次避難所」、旅館・ホテルなどの「2次避難所」という形で避難者の移動を進めています。ただ、被災地の避難所や自宅などに残った人も多数いますし、十分とは言えません。
 「必ず戻れるから、被災した地元をいったん出よう」というメッセージがもっと発信されればよかった。首長が今後の見通しや希望を示すことは大切だと感じました。
 被災地では、罹災証明書の申請受け付けが始まり、家屋被害の調査が行われています。罹災証明は義援金や被災者生活再建支援金の支給区分に直結しますし、融資やさまざまな支援の土台となる重要な書類です。
 この罹災証明が、住宅がどれくらい壊れたのかということだけを指標とする点を、以前から疑問視してきました。
 能登半島地震では、多くの家屋倒壊に加えて、道路寸断や断水などにより、家屋被害が軽微でも事実上、生活ができない世帯が相当あると言われています。
 家の壊れ方だけでなく、その人が暮らせるのか、暮らせないのかで考えるべきであり、生活の困難さへの理解が欠けています。「制度は被災者のために」という原点に返らないといけません。
 阪神大震災の直後、傾いた長屋で生活を続けている人がいました。その後、在宅避難という言葉が生まれ、今回も相当数の方が当てはまるはずです。取り残されがちな被災者も含め、一人一人の状況を把握する「災害ケースマネジメント」を実施し、できる限りの支援を提供していく姿勢が求められています。

 阪神大震災 1995年1月17日午前5時46分、兵庫県淡路島北部を震源にマグニチュード(M)7.3の地震が発生。神戸市などで観測史上初の震度7を記録した。死者6434人、行方不明者3人。多くの家屋が倒壊、耐震化が課題に。遅かった政府の初動が問われた。多くの人々が支援に従事し「ボランティア元年」と言われた。

 つくい・すすむ 1969年名古屋市生まれ。神戸大卒。日弁連災害復興支援委員会前委員長。近畿災害対策まちづくり支援機構事務局次長。

いい茶0

気象・災害の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞