テーマ : 気象・災害

能登半島地震が問うもの この痛み 記憶しながら【焦点/争点】

 元日に発生した能登半島地震。論壇各誌では科学的見地からの解説や今後の防災対策の提言が目を引いた。また、阪神大震災から今に連なる社会のありようを描き出そうとする論考も読ませた。

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 日本海側の防災
 京都大名誉教授の鎌田浩毅は「中央公論」3月号に「能登半島地震から何を学ぶべきか」を寄せ、今回の地震が「能登地方では記録が残る1885年以降、最大」で「能登半島北部のほぼ全域が震源断層の真上に位置していたため大きな被害が出た」と説明。
 太平洋側に災害警戒の比重が置かれてきたことに触れ、「災害規模が小さいとされた日本海側での防災意識は、これまで決して高くはなかった」と振り返る。その上で、南海トラフ巨大地震が発生した際、日本海側の自治体は救助やバックアップの重要な拠点になるとし、「インフラ等を早急に整備し、激甚災害の発生前に人や物や情報をできるだけ分散させておく必要がある」と提案した。

 津波対策に課題
 能登半島地震では海底や地盤の隆起が確認された。名古屋大減災連携研究センター教授の鈴木康弘は「能登半島地震と活断層」(「世界」3月号)で「隆起・沈降を考慮した津波対策はこれまで念頭になかったため、今後に大きな課題を残した」と指摘する。
 沿岸海域は技術的に調査が難しく「活断層が見逃されている地域は他にもある可能性がある」といい、地震や活断層について「どこまでは確実にわかり、どこからは仮説なのかを明らかにして、それでも対策が重要だということ、やるだけの価値があるということを国民に対して丁寧に説明する必要がある」と説いた。

 大震災の連なり
 「群像」3月号で、阪神大震災時の自身の記憶をたどりつつ、東日本大震災や熊本地震といったその後の「大きな震災」を列挙し「私たちは生を養うという視点から社会を設計しなおしてきただろうか」と問うたのは早稲田大准教授の岩川ありさだ。同誌での連載「養生する言葉」の最新回で言及した。
 「養生」は「自分の体や心を養うといった、個人的な領域という意味あいが強いと思われている」が「生が続いてゆくためには、その生を支えるさまざまな社会的な制度やインフラが不可欠」で「社会の支援のネットワークがあることではじめて、ある人の生は養いうるものになる」と岩川。
 アナウンサーの避難の呼びかけに注目した「災害と言葉」、情報から疎外されるマイノリティーへのまなざしの重要性をつづる「トランスジェンダーと震災」へと論を展開し、「自然災害の前で私たちは無力さと悔しさに呆然[ぼうぜん]となる。生を養うことの困難さを痛感する。私たちに必要なのはこの痛みを記憶することなのだ」とした。
 痛みを記憶する営みなしに「復興」の2文字ばかりが先走った結果、これまでも取り残されてきた人々がいた。そこに広がる人災の風景を、私たちは何度も目にしてきた。また同じ轍[てつ]を踏むのか否か、これからが正念場だ。
 (敬称略)

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