テーマ : 気象・災害

沿岸密集地 弱点あらわ 輪島朝市周辺 消火活動難しく

 能登半島地震直後に発生した石川県輪島市の「輪島朝市」周辺の大規模火災。大津波警報が出る中、倒壊した建物の部材が延焼の原因となるなどして消火活動を難しくしたとみられ、沿岸の密集市街地の弱点があらわになった。現地調査した東京大の広井悠教授(都市防災)は「同様の場所でどのような対策を取れば良いか、地域特性も考慮して検討する必要がある」としている。

大規模火災でほぼ全域が焼失した石川県輪島市の「輪島朝市」周辺=10日
大規模火災でほぼ全域が焼失した石川県輪島市の「輪島朝市」周辺=10日
能登半島地震で倒壊した石川県輪島市のビルを描く鈴木誠さん=3日
能登半島地震で倒壊した石川県輪島市のビルを描く鈴木誠さん=3日
大規模火災でほぼ全域が焼失した石川県輪島市の「輪島朝市」周辺=10日
能登半島地震で倒壊した石川県輪島市のビルを描く鈴木誠さん=3日


 ▼正月の夕方
 広井氏は、約5万2千平方メートルの範囲で309棟が焼失したと推定。テレビで放送されたヘリコプターからの映像や住民への聞き取りから、出火時刻は地震発生直後、出火地点は焼失区域の南西部の1カ所とみている。当日は「最初はほぼ無風。その後、風速5メートルもない風があった」とした。
 広井氏によると、過去の大地震による1万世帯当たりの出火件数は、阪神大震災が3・0件、東日本大震災が0・44件、熊本地震が0・24件。今回の輪島市内は0・93件で、やや多い。広井氏は「地震の発生が冬の夕方で、しかも正月だったことから多くの家庭で火を使っていた可能性がある」と話す。
 加えて指摘するのは建物倒壊の影響だ。もともと木造密集地である上、倒壊した建物の部材が道路にはみ出して延焼の原因になったり、外壁が損傷して建物の防火性能が低下したりしたとみられる。プロパンガスボンベや車、灯油タンクに引火して延焼を助長した恐れもある。こうした要因が重なり「燃えやすい市街地になってしまった可能性がある」(広井氏)。

 ▼浸水想定区域
 消火活動も困難を極めた。住民への聞き取りでは、断水の影響で消火栓が使えず、道路や倉庫に被害が出たためポンプ車の到着が遅れ、一部の防火水槽も使えない状態だったとみられることが分かった。地震や津波の影響なのか、消火に使う川の水が普段の半分ぐらいしかなかったとの情報もある。
 現場周辺は、大半が石川県の津波浸水想定区域に含まれており、地震発生から間もなく出された大津波警報が、初期消火をさらに難しくした可能性もある。
 京都大の西野智研准教授(建築火災安全工学)は「住民も消防隊も津波への対応が必要だった。沿岸部で消火活動をするかどうかの判断や、川や海からの取水も難しかっただろう」と推測する。

 ▼顕在化
 広井氏も「あくまで推測」とした上で「住民同士の助け合いが極めて難しい状況だった可能性は否定できない」と指摘。「出火地点が1カ所で強風ではなくても、地震時は大規模延焼に至るという危険性が顕在化した」と強調する。
 一方、輪島市で最大約4メートルを観測した地盤の隆起の影響もあり、周辺で津波による浸水被害はほとんどなかった。
 静岡大防災総合センターの岩田孝仁特任教授(防災学)は「結果的に津波被害は大きくならなかったが、大津波警報時は消防団員らも自らの命を守るため、避難するべきだ」と訴える。
復興の願い込め描く 岩手の画家 鈴木さん  能登半島地震で大きな被害が出た石川県に、自然災害の絵を長く手がけてきた岩手県の画家鈴木誠さん(51)が入って被災地の現状から復興の過程を描く活動を始めている。多くの人が亡くなり、家屋が倒れて日常が奪われた光景に心を痛め、「絵で震災の悲しみを伝えるだけでなく、見る人がもう一度立ち上がる気持ちになってほしい」と願い、絵筆を走らせる。
 今月上旬の夕方、油彩のキャンバスに向かっていたのは輪島市内で倒壊した7階建てビルの前。筆のタッチは荒く、揺らぐようなはっきりとは見えない線でビルの外郭を描いていく。周囲を包む淡い黄色は、曇天が続く真冬の北陸でつかの間に差した夕暮れがビルを温かく照らす様子を表現している。
 作品には「悲しい感情を誘う表現だけでなく、見る人が希望を抱くような表現」を大事にしている。被災者と話し、気持ちに寄り添って描く。単なる現実の描写ではなく、災害前の日常の光景に思いをはせて復興への願いを込めている。
今後も定期的に被災地を訪れ、描いた作品の展覧会を開く予定だ。

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