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日本海側 短時間で津波到達 能登地震 専門家「4メートル超、1分」 観測網の整備 訴え

 マグニチュード(M)7・6を観測した能登半島地震では、北海道から九州にかけての広範囲で津波が観測された。日本海側では過去にも津波被害を伴う地震が発生している。沿岸部に到達するまでの時間が短いのが日本海側の津波の特徴だが、太平洋側に比べてデータが少なく、専門家は「調査や観測網の整備を進めるべきだ」と訴える。

2日、津波の被害を受けたとみられる石川県珠洲市の沿岸部
2日、津波の被害を受けたとみられる石川県珠洲市の沿岸部
観測された主な津波高
観測された主な津波高
2日、津波の被害を受けたとみられる石川県珠洲市の沿岸部
観測された主な津波高


 ▽データ入らず
 海に面した石川県珠洲市宝立町鵜飼地区。鵜飼川の河口付近は津波が堤防を越えて浸水した。川沿いの道路には5日も船が乗り上げたままだ。
 「もし避難していなかったら、どうなっていたことか」。避難所に身を寄せる女性(76)は声を震わせた。1日夕、大きな揺れで立っていられなくなり、直後に訪れた近所の人の車に乗せてもらい難を逃れた。自宅は浸水し、多くの家具が被害を受けたという。
 気象庁は1日午後4時10分ごろの地震発生直後、2011年の東日本大震災以来となる大津波警報を能登地方に、山形県、兵庫県などに津波警報、北海道、佐賀県などに津波注意報を発表した。
 各地で津波を観測したが、石川県輪島市の輪島港では午後4時21分に高さ1・2メートルを観測した後、データが入って来なくなった。珠洲市の観測地点では当初からデータが得られなかった。珠洲市では地盤の隆起で海底が露出し、観測不能になったとみられる。

 ▽反射も特徴
 「珠洲市や輪島市は4メートル程度の津波に襲われた可能性がある。能登半島のさらに先端は複雑な地形なので、もっと高い津波が来たのではないか」。航空写真で建物の損壊状況などを見た東北大の今村文彦教授(津波工学)は分析する。石川県志賀町の漁港を調べた東京大などのチームは、津波が通常の潮位から約4・2メートルの高さまで陸上をはい上がったと推定した。
 日本海側の津波想定をまとめた国土交通省の調査検討会などによると、日本海側には海岸線に近い断層が多く、太平洋側のプレート(岩盤)境界付近で起きる「海溝型地震」と比べて津波の到達が早くなる。大陸と日本列島で反射して何度も押し寄せるのも特徴だ。
 国土地理院が地殻変動のデータを基に作成した震源断層モデルなどを使って、今村氏が津波の動きを解析したところ、珠洲市には約1分、七尾市には約2分、富山市には約5分で到達した可能性があるとの結果が出た。

 ▽評価 後回し
 北海道西方沖から新潟県沖には断層が多くあり、過去に津波被害を伴う地震が繰り返し発生。国交省検討会の報告書などによると、秋田県沖を震源とする1983年の日本海中部地震(M7・7)では早い所で7分程度で津波が到達し、秋田県で10メートル以上に達したとされる。93年の北海道南西沖地震(M7・8)では3分足らずで到達、北海道の奥尻島で最大約30メートルだったとされる。
 能登半島沖にも複数の断層があり、検討会は今回と同程度の地震を想定していた。一方、各地の地震規模などを予測する政府地震調査委員会は、能登半島沖の断層を評価対象としてこなかった。
 金沢大の平松良浩教授(地震学)は「太平洋側に比べ、日本海側に対する評価は後回しになっている印象だ。改善すべきでは」と話す。今村氏は「日本海側で津波を伴うような地震は頻度が低いので忘れやすくなるが、今後も確実にある」と警鐘を鳴らす。

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