テーマ : 気象・災害

【第3章】半割れ発生(前編)② 高知など津波被害 初の臨時情報にパニック【東海さん一家の防災日記 南海トラフ地震に備える/いのち守る 防災しずおか】

 最大でマグニチュード(M)9級の巨大災害が想定される南海トラフ地震で最も懸念されるケースの一つは、M8級の大地震が続けざまに起こる「半割れケース」だ。同ケースが発生すると社会はどのような状況になるのか。自主防災会会長の東海駿河さん(71)や長男で会社員の遠州さん(36)一家をモデルに、住民が直面する課題を考える。
初の臨時情報 パニック  夏の平日昼に四国沖で発生したM8・0の地震と津波警報発表を受け、浸水想定区域に住む東海三保さん(34)と長女かのちゃん(5)は命山に、長男竜洋君(7)は小学校屋上に避難した。
 発生から1時間後、命山に避難した市民は皆、スマートフォンの画面にくぎ付けになっていた。高知県、徳島県などの沿岸部は高さ5~10メートルの津波に襲われ、建物が流されたようだ。
 「東日本大震災と同じ光景だわ。富士子さん、どうか無事でいて」。三保さんは徳島県に出張中で連絡が付かない義妹の身を案じた。
地震発生後の主な動き(架空のシナリオ)  ■制止できず
 既に静岡県にも第1波が到達し、命山周辺でも海抜の低い土地で深さ1メートル未満の浸水が見られた。地震から約2時間後、気象庁は全国初となる「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」を発表した。防災行政無線の放送が曇り空に響く。
 <南海トラフ沿いの四国沖以外の地域で、大規模地震発生の可能性が平常時より高まっています。津波から避難が困難な地域の方々は1週間、安全な場所に事前避難をしてください>
 臨時情報、事前避難という言葉を初めて聞いた市民の多くが意味を理解できずパニックになった。「巨大地震発生の可能性が高まってるだって? こっちでも地震が起きるのか」「こんな所にいちゃ危ないわ」
 三保さんは驚いて制止しようとした。「待って、皆さん。まだ津波警報は解除されてません。今移動するのは危険です。警報解除を待ちましょう」。近くにいた自主防災会役員の男性も制止に努めたが、命山にいた人の半数以上が自宅へと向かった。周辺では避難する車で渋滞ができている。

 ■自主避難へ
 夕方、日が暮れ始めても警報は解除されなかった。自主防の男性は命山に隣接する小学校に行って教員と相談し、命山の避難者も小学校3階の空き教室に入れてもらうことになった。もし静岡県沖で大地震が起きれば10分以内に津波が来るかもしれず、自宅で寝るのは危険だ。命山では風雨にさらされるかもしれず、小学校に移動した。
 学校には、子どもを迎えに大勢の保護者が詰めかけ混乱していた。三保さんは今、浸水想定区域外に移動するのは地震発生のリスクから危険と思い、竜洋君と合流し教室で夜を明かした。夫の遠州さんからは同区域外の会社に泊まるとメールがあった。
 翌日午前、津波警報が注意報に切り替わった。小学校と保育園からは当面休校、休園にすると連絡があった。三保さんは子どもたちと帰宅し、同区域外にある義父・駿河さんの家に自主避難するために荷物をまとめ始めた。この地域では事前避難の対象者は高齢者などの「避難行動要支援者」となっているが、遠州さん一家は駿河さんの了解を得て自主避難することにした。間もなく遠州さんも帰宅し、備蓄していた水や食料などを急いで車に積み込んだ。

Q&A 南海トラフ地震臨時情報   「臨時情報(巨大地震警戒)」とは何か。
  南海トラフの想定震源域などでマグニチュード(M)6.8以上の地震や異常現象(プレート境界での「ゆっくり滑り」)が観測された場合、気象庁は「臨時情報(調査中)」を発表し、有識者でつくる評価検討会が起こった現象を評価する。プレート境界でM8.0以上の地震が起きたと判断されれば臨時情報(巨大地震警戒)を発表する。南海トラフで再び大規模地震が発生する可能性が平常時より高まったとして警戒や避難を促す情報だ。
  「平常時より高まった」とはどんな意味か。
  気象庁によれば、M8級以上の地震が発生して1週間以内に再びM8級以上の地震が起きる確率は「十数回に1回程度」と10%未満ながらも、「通常の100倍程度」に高まるという。
  東海地震の予知情報や警戒宣言とは違うのか。
  地震予知が科学的に困難と判明したため気象庁は予知情報の発表をやめ、2019年から南海トラフ地震臨時情報の発表体制に移行した。警戒宣言発令時は交通機関や学校、銀行などの休止が予定されたが、臨時情報の発表時は「地震に備えつつ通常の社会活動をできるだけ維持する」という点で大きく異なる。

 ◇この物語は南海トラフ地震の幅広い発生パターンの一例を描いた架空のシナリオです。実際には全く異なる発生状況もあり得ます。
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