土に触れる原始的な衝動 陶芸家・前田直紀さん(静岡市葵区)【表現者たち】
JR島田駅前の通りの空き店舗に、陶芸家前田直紀さん(46)=静岡市葵区=が、巨大なオブジェを複数据える。人けのない空間で、ひんやりとした粘土肌が静かに呼吸するかのよう。個展「土纏~tsuchi.matou」は、17日まで島田市や川根本町で開催中の「UNMANNED(アンマンド) 無人駅の芸術祭/大井川」の一画を成す。
「焼かない作品も陶芸と呼べるか。焼かなくてよければ焼きたくない」。器の意匠としての美しさ、使い勝手の良さを追求する一方で、「土に触れること自体が原始的な衝動だろう」。独自のアプローチを模索してきた。
一つのオブジェに信楽[しがらき]の粘土を200キロ使う。内部は空洞。重力に耐えられる厚みと強度を計算しながら、「常に数学をしている感覚。ただ、計算通りでは不満足」ともいう。塊のつなぎ目を指でつぶしていった痕跡が模様になる。竜、波、うろこ、炎―。鑑賞者のさまざまな捉え方に、土の自在さを実感する。
通りに面した陳列台には昨秋、南フランスの街バロリスでのアーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)で手がけた作品を並べた。ピカソも魅せられた陶芸の街。「砂混じりのキラキラした土が特徴的。日本の漆を塗って地中に埋めて取り出した作品には、現地のほこりも湿気も、人の呼吸も入れ込んだ」。角を持つオブジェが異彩を放つ。
これまで欧州やアジア各地で滞在制作やワークショップを続け、世界に活躍の場を広げる。「器はまるで共通言語のように通じ合う」。県内では故郷、藤枝市陶芸センターの館長を5年間務めた。現在は「駿府の工房 匠宿」の「火と土」工房長として、後進や愛好者を育てる。
土の「うつろな状態」こそ、人の心を揺り動かす。「開けば器に、閉じれば祈りの形。手の中で一瞬にして形にしていく。自分の知らない文化圏へ訪れてみたい。さらに土の深みにはまりそう」と語る。
(教育文化部・岡本妙)
2日午後7時から個展会場の旧「岡むらのぼる」(島田市日之出町)で、華道家上野雄次さんとのライブパフォーマンスを行う。詳細は「無人駅の芸術祭」ウェブサイトへ。