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テーマ : 藤枝市

コラム窓辺 牛の頭と雨乞い(中村羊一郎/静岡市歴史博物館長)

 静岡市の北にそびえる標高約千メートルの竜爪山。急に日が陰ってきても、「頂上が見えているから降らないよ」と言ったものです。竜爪という山名は、雨が上がったあと、山頂に竜の爪が残っていたことによると伝えられます。

中村羊一郎氏
中村羊一郎氏

 竜は水の象徴です。竜爪山は水を司[つかさど]る聖なる山として信仰を集めてきました。日照りが続いて困ったときには、竜爪山に雨乞いをしました。その方法は、山中に牛の頭を置いてくるという、いささか血なまぐさいものでした。明治20(1887)年生まれのお年寄りから直接聞いた話ですが、子どもの頃、大雨が降り続いたことがありました。「これは誰かが牛の頭を置いていったに違いない、拾ってこなければやまないぞ」と、男たちが蓑[みの]笠を着けて探しに行ったそうです。
 降雨や豊作を祈って牛を捧[ささ]げる習慣は、日本だけでなく世界の農耕民族の間に広く見られました。大切な牛を犠牲にして、必死の気持ちを神様に示すわけです。池や沼に牛の頭を投げ込んで雨を祈ったという話も県内各地で聞かれます。
 藤枝市の青池では藁[わら]製の牛を沈めたそうですし、スキーが盛んだった御殿場市では降雪を願って藁製の牛を淵に沈めました。昭和54(1979)年のことです。水底に牛の怪物がいて馬を引きずりこむ、という伝説はこんな習慣から生まれたものです。静岡市の浅畑沼には、天候に左右される小豆相場を動かそうと、牛の頭を沈めた人がいました。大正時代の話ですが、伝説を信じて勝負をかける人もいたのですね。
(中村羊一郎=なかむらよういちろう/静岡市歴史博物館長)

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