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テーマ : 藤枝市

「銀河鉄道999」のフライヤ 苦境でも光る自尊心と志【アニメ脇役列伝 1970年代編⑩】

 1回しか登場しないのに鮮烈な印象を残す登場人物がいる。「銀河鉄道999」第16話「蛍の街」に出演したフライヤもそんな人物のひとりだ。
 永遠に生きられるという機械の体をもらうため、銀河鉄道の999号で宇宙の星々を旅する少年・星野鉄郎。彼は停車駅「真理子の螢[ほたる]」で、フライヤという女性と出会う。貧富の差が激しいこの星で、フライヤは見るからに貧しい姿で働いていた。自分のお金を分けてあげようとする鉄郎。しかし彼女はそれを断る。彼女は「自分が自信を持って売れるものを買ってほしい」という。それは漫画映画の絵コンテだった。
 アニメ演出家を志す彼女は、唯一の友達だった愛猫を漫画映画にするという夢を持っていたのだ。大切なその絵コンテならお金をもらっても恥ずかしくない、と。フライヤが貧しいのは、夜になると人々の体が蛍のように光るこの星にあって、彼女は斑[まだら]にしか体が光らず、さげすまれていたからだ。そんな境遇でも彼女は自尊心と志を手放してはいなかった。
 原作の松本零士は仕事のない若き日、アニメを制作しようと、自力で撮影台を制作したというエピソードの持ち主。逆境でも自尊心と志を失わないフライヤは、鉄郎と同じく、松本の分身ともいうべき人物なのだ。
 「999」は、原作もテレビシリーズも継続中の1979年に映画が公開され、鉄郎の旅の結末まで描いてしまった。これについて松本は、「999」という作品は、鉄郎が停車駅で繰り広げる幾多の出会いが大切だから、映画で結末を描いても大丈夫、と語っていたという。フライヤと鉄郎の物語も、鮮烈な印象を残す、そんな大切な出会いのひとつなのである。
 (藤津亮太・アニメ評論家=藤枝市出身)
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 筆者はSBSラジオ「TOROアニメーション総研」(毎週月曜午後7時)出演中。SBS学苑パルシェ校で28日に講座「アニメ映画を読む」。テーマは「伝説巨神イデオン」。

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