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テーマ : 藤枝市

時論(3月8日)ウェルビーイング 具現した人

 字面で分かったつもりになり、分かったふりをして、恥ずかしい思いをすることがある。そんな言葉は、使うのをためらう。例えば「ウェルビーイング」。「幸せ(ハピネス)」より広く深いということは感覚的に分かるのだが。
 経済協力開発機構(OECD)が示すウェルビーイングの3要素の一つに「人生における意義と目的意識」とあり、分かったような気がしてきた。これまでの「身体的・精神的・社会的に良い状態」という説明に感じていた物足りなさが解消されそうだ。
 そして、この人が頭に浮かんだ。「魂の俳人」村越化石(本名・英彦、1922~2014年)。きょう3月8日が命日、没後10年である。
 ハンセン病を患いながらも生涯俳句を作り続け、多くの賞を受けた。生家からは折に触れて手紙や里山の実り、餅などが届いた。生家近くの「玉露の里」(藤枝市岡部町)に句碑「望郷の目覚む八十八夜かな」が02年建立。除幕式に招かれ60年ぶりに帰郷した。
 病のため33歳で片目の視力を失い、48歳で全盲に。「天[あま]が下雨垂れ石の涼しけれ」(1976年)は師大野林火が「化石にはかなわない。無欲の境地に達している」と推賞した。
 「肉眼はものを見る、心眼は仏を見る、俳句は心眼あるところに生ず」(本田一杉)を作句のよりどころとした。両手の自由をなくし最晩年は聴力も弱ったが、一言の不平も言わず、不満も漏らさず、笑顔で「大丈夫だよ」「俳句が沢山できるんだよ」と言っていたという。
 だれもが継続的にウェルビーイングを自覚し、他人のウェルビーイングを尊重する社会は、福祉だけでは実現しない。つながる人と教育の役割が大きいのではなかろうか。
 (論説副委員長・佐藤学)

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