スギ 日本文化支え 共に生きた樹(菅原久夫/富士山自然誌研究会長、長泉町)【しずおかに生きる植物 冬⑤】
真っすぐ幹を伸ばし、天を突く。スギは日本最長寿の樹である。崇高さを漂わせ、ご神木として神社には欠かせない。
スギはわが国固有の種。鹿児島県屋久島から青森県まで分布する。私たちの祖先が日本列島に移り住んだ時、スギはすでに自生していた。鉄器がない時代から柔らかく素直な樹性は生活に欠かせなかった。
稲作が始まると、集落はスギに依存していった。登呂遺跡(静岡市駿河区)では住居、高床式倉庫、水田の土留めに杉板が使われた。登呂周辺にもスギは自生していた。本県はスギの生育適地でもある。
スギはヒノキ科で、仲間の多くは環太平洋に遺存種として隔離分布している。よく見かけるメタセコイアは公園、校庭、街路で親しまれている。絶滅したと考えられていたが中国・四川省で発見され、生きた化石として話題を呼んだ。アメリカ西海岸にはセコイアが自生する。樹高100メートルの巨木には驚かされる。
他にヌマスギ、スイショウ、タイワンスギなどがほそぼそと生き、南半球のタスマニア島にはタスマニアスギが生き続けている。いずれも中生代後期のジュラ紀から白亜紀にかけて恐竜とともに繁栄していた裸子植物である。
プラスチックがそれほど利用されていなかった1960年代以前、スギは私たちの生活を支えていた。箸、経木、曲げわっぱ、樽[たる]、桶[おけ]、浴槽。建築材もスギが主役。屋根から土台まで柱、板として使われた。香がたかれ、新酒ができれば杉玉が軒に飾られ、酒は杉樽の香りと共に熟成される。わが国の文化を支え、共に生きてきた樹である。スギの巨木は深遠にして神々しい。
杉の雪一町奥に仁王門 正岡子規
(文と写真・菅原久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)
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