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憲法「現実に合わない」最多 静岡新聞社県民意識調査20年 情勢激動、揺れる改正論

 静岡新聞社が2004年末に開始した日本国憲法に関する県民意識調査は、23年末で20回目を迎えた。この20年間で集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法の成立(15年)、ロシアのウクライナ侵攻(22年)など国内外の情勢は揺れ動き、県民の憲法観、とりわけ戦力不保持などを定めた9条を巡る考え方に影響を及ぼしてきた。一方で有識者は「憲法は国のあり方についてのグランドデザイン(全体構想)だ」と指摘し、9条に限らず幅広い視点で憲法論議を活発化させる必要性を訴える。
 (社会部・木村祐太)
   9条は国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄し、戦力を保持しないことを定める。政府は自衛隊の存在について憲法解釈や運用で対応してきた。9条と自衛隊の存在の整合性について尋ねた質問では、初年度の04年に「解釈や運用で対応するのは限界なので、9条を改正する」が51・1%を占めた。13年には「これまで通り解釈や運用で対応する」が初めて逆転。21年には再び9条を改正すべきという意見が上回り、23年は42・6%と13年ぶりに40%を上回った。
     憲法の評価は「趣旨と現実が合っていない面がある」が20年間を通じて最も多く、40~60%台で推移した。改憲については「改正に向けて積極的に議論すべき」「議論した結果、改正することがあってもよい」とする容認派がおおむね7割。改憲を容認する最も多い理由は「憲法の規定が時代に合わなくなっているから」で、見直しや規定の追加が必要な対象は「9条と自衛隊」が突出して多かった。「知る権利・プライバシー保護」「内閣・議会制度」などが続いた。
 憲法への関心は「ある」と「ある程度ある」が開始以降60~70%を維持。安倍晋三政権の下で安保関連法が成立し、反対運動が全国に波及した15年に75・4%と最も高くなった。18、19歳を対象とした16~18年は40~50%台。再び20歳以上も含めて行った19年は70・3%となったが、20年以降は年々低下し、23年は60・9%だった。
 県民意識調査は04~15年は20歳以上、16~18年は18、19歳を対象に実施した。19年以降は18歳以上に広げて行っている。

常葉大教授・法学部長 吉崎暢洋氏 9条限らず 幅広い議論を 吉崎暢洋・常葉大教授  ―9条と自衛隊の存在に対する県民の意識をどう見るか。
 「解釈や運用での対応が限界だとして、改正が必要とする意見が近年伸びている。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、9条について正面から議論すべきという意見が多くなっている可能性がある。見直しや規定の追加が必要な対象も『9条と自衛隊』が最も多い」
 ―関心の推移はどうか。
 「憲法への関心は、専ら9条を巡る議論に絞られているとみていい。2015年は安倍政権下で安保関連法が成立し、9条が集団的自衛権を認めているかを巡って関心を集めたが、その後は緩やかに下降しているように見える。20年は新型コロナウイルスの感染拡大で、営業自粛や補償のあり方などで憲法に関わる議論も時折見られたが、大きな関心喚起に結びついていない。総じて県民の関心が高まりを見せない一つの理由に、根本的な憲法論議を棚上げにして目下の必要に対処しようとする国の姿勢があるのではないか」
 ―どういうことか。
 「14年に集団的自衛権の行使容認が閣議決定された。9条の問題を正面から取り扱おうとした意味で安倍政権はまれな存在と言えたが、改憲を問う国民投票には至らなかった。22年にはロシアのウクライナ侵攻で9条見直しへの関心は再び高まったが、同年12月、反撃能力(敵基地攻撃能力)を備える防衛力増強の方針が閣議決定された。憲法に関わるさまざまな問題を解釈や運用で対処すると、関心の高まりは一過性に終わってしまう」
 ―今後の憲法論議はどうあるべきと考えるか。
 「憲法は国のあり方を定めたグランドデザイン(全体構想)であり、議論が必要な事柄は9条にとどまらない。見直しや規定の追加が必要な対象に『知る権利・プライバシー保護』を挙げる人も少なくなかった。インターネットの普及や人工知能(AI)の発達が背景にある。ドイツでは21年3月、二酸化炭素(CO2)の排出量削減の負担を現役世代には軽く、将来世代に重く負担させる法律を連邦憲法裁判所が違憲と判断した。自分たちの目先のことではなく、もっと先を見据えた将来世代の権利と自由を守るための議論を俎上(そじょう)に載せていくべきだ」

 よしざき・のぶひろ 福山平成大助教授、姫路独協大教授を経て現職。専門は憲法学。山口県出身。63歳。

本社憲法調査結果  ※数字は回答総数に対する%。カッコ内は2022年末
 問1 あなたは日本国憲法に関心がありますか、それともありませんか。次の中から一つお答えください
 関心がある15.7(22.1)
 ある程度関心がある45.2(41.8)
 あまり関心がない31.3(28.4)
 関心がない5.8(6.0)
 分からない1.9(1.8)
 問2 あなたは今の憲法をどのように評価しますか。次の中から一つお答えください。
 立派な憲法で普遍的な価値がある14.4(16.8)
 憲法の趣旨と現実が合っていない面がある53.0(48.6)
 「日本の憲法」としての特色がない4.9(4.7)
 特に何も思わない18.8(20.4)
 その他0.8(1.8)
 分からない8.1(7.7)
 問3 あなたは憲法改正について、どう思いますか。次の中から一つお答えください。
 改正に向けて積極的に議論すべきだ15.1(11.9)
 議論した結果、改正することがあってもよい62.1(58.9)
 議論は構わないが、改正の必要はない13.0(12.8)
 改正するべきではなく、議論する必要もない1.8(2.6)
 その他0.8(2.3)
 分からない7.3(11.4)
 問4 (問3で「改正に向けて積極的に議論すべきだ」「議論した結果、改正することがあってもよい」と答えた人に伺います)あなたがそう思う最も大きな理由は何ですか。次の中から一つお答えください。
 米国に押しつけられた憲法だから2.1(3.2)
 制定以来、一度も改正されていないから9.7(11.1)
 憲法の規定が時代に合わなくなっているから45.1(36.3)
 新たな権利や義務を盛り込む必要があるから16.7(17.4)
 その他0.8(0.7)
 分からない1.0(1.2)
 問5 (問3で「改正に向けて積極的に議論すべきだ」「議論した結果、改正することがあってもよい」と答えた人に伺います)見直しや追加が必要だと思うものを次の中から二つお答えください。
 憲法前文2.3(3.0)
 天皇制14.4(15.6)
 憲法9条と自衛隊41.3(38.1)
 国際貢献9.1(6.5)
 内閣・議会制度20.4(16.5)
 地方分権11.7(12.8)
 環境権8.1(7.2)
 知る権利・プライバシー保護18.8(17.9)
 司法制度11.2(11.1)
 憲法96条(改憲の発議要件)4.9(4.9)
 その他7.3(4.9)
 問6 (問3で「議論は構わないが、改正の必要はない」「改正するべきではなく、議論する必要もない」と答えた人に伺います)あなたがそう思う理由は何ですか。次の中から一つお答えください。
 憲法が戦争放棄と国際貢献を掲げているから4.1(4.7)
 憲法を変えると「軍事大国」への道を開く可能性があるから4.9(3.7)
 今の憲法で不都合なことは何もないから3.4(4.0)
 現在の憲法規定を実現すること、あるいはもっと生かすことが先決だから1.3(2.1)
 その他0.5(0.2)
 分からない0.5(0.7)
 問7 憲法9条は、国際紛争を解決する手段としての「戦争」を放棄し、「戦力を保持しない」ことを定めています。政府はこれまで自衛隊の存在や活動について、憲法解釈や運用で対応してきました。あなたは憲法9条について、今後どうすればよいと思いますか。次の中から一つお答えください。
 これまで通り解釈や運用で対応する31.3(30.5)
 解釈や運用で対応するのは限界なので、憲法9条を改正する42.6(38.4)
 憲法9条を厳密に守り、解釈や運用で対応しない10.5(13.7)
 その他2.4(2.5)
 分からない13.1(14.9)
 問8 裁判のやり直し(再審)に関する規定が刑事訴訟法に19カ条しかなく、法の不備が人権救済を妨げているとして、憲法の理念に照らし、法制度を整えるべきとの声が再審の請求人や弁護人から上がっています。あなたの考えを次の中から一つお答えください。
 再審法制を整えるべき65.5(57.9)
 再審法制を整える必要はない3.9(6.7)
 その他2.9(1.6)
 分からない27.7(33.9)
 問9 静岡地裁では1966年に現在の静岡市清水区で4人を殺害したとして死刑が確定している袴田巌さん(87)の再審が行われています。こうした事例がある中で、再審法制の見直しに対する現在の政府与党(自民党・公明党)の姿勢についてどう評価しますか。あなたの考えを次の中から一つお答えください。
 十分検討している姿勢が見える3.2(―)ある程度検討している姿勢が見える20.7(―)検討している姿勢はあまり見えてこない55.3(―)検討している姿勢は全く見えてこない17.0(―)その他(「分からない」など)3.7(―)
 問10 あなたは普段どの政党を支持していますか。次の中から一つお答えください。
  自民党28.0(26.5)
 立憲民主党2.1(4.7)
 日本維新の会2.1(2.8)
 公明党2.3(0.9)
 国民民主党3.1(2.6)
 共産党1.0(1.9)
 れいわ新選組2.3(1.8)
 社民党0.2(0.4)
 みんなでつくる党0.0(NHK党0.4)
 参政党0.5(0.9)
 支持政党なし53.2(50.4)
 分からない5.3(6.8)
 【性別】
 男性52.8(51.2)
 女性47.2(48.8)
 【年代】
 10代、20代(10代は18、19歳)22.0(23.3)
 30代19.4(19.5)
 40代19.4(18.8)
 50代21.6(17.5)
 60代以上17.5(20.9)
 【職業】
 農林漁業2.6(2.8)
 商工・サービス業17.8(15.6)
 自由業5.0(5.4)
 管理職7.8(9.1)
 事務・技術職33.7(24.6)
 現業職3.1(4.0)
 主婦 8.1(11.6)
 学生 3.7(8.1)
 無職 4.5(7.0)
 その他13.6(11.8)
 【市町】
 静岡・浜松・沼津・富士市45.2(57.9)
 その他の市47.3(37.4)
 町7.5(4.7)

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