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テーマ : 牧之原市

「異次元緩和」の出口 最大課題に 植田日銀が始動 学者総裁、問われる手腕

 植田和男日銀総裁の新体制が10日、スタートした。黒田東彦前総裁が積み残した2%の物価安定目標に見通しを付け、副作用が目立つ「異次元緩和」の手じまいに向かえるかどうかが、5年間の任期で最大の課題になる。市場の緩和修正観測と、景気配慮を求める政治の声をどうさばくのか、欧米発の金融不安の波及リスクもくすぶる中で学者総裁の手腕が早速問われる。

恒友仁常務理事
恒友仁常務理事


■デメリット
 「使命である物価と金融システムの安定に力を尽くす」。10日夜の就任記者会見に臨んだ植田氏は、中央銀行トップの重責を担う決意を示した。
 植田氏は2月の国会での所信聴取で、異次元緩和について「工夫を凝らしながら継続することが適切だ」と表明。物価目標など政策の方向性は維持するものの、具体的な手段は必要に応じて見直しに取り組む柔軟な姿勢を見せた。
 長期金利の上限を抑え込むために日銀が国債を無制限に買い入れる緩和策については「さまざまな副作用も生じている」と指摘しており、債券市場の機能低下といった「悪影響を重視してこなかった」(日銀関係者)とされる黒田氏とは異なり、金融政策のデメリットや限界を明確に意識しているとみられる。
 元日銀理事の前田栄治ちばぎん総合研究所社長は、長期金利の抑え込みが「国債市場に過度なゆがみをもたらし、為替相場の振幅も大きくした」と批判。短期金利をマイナス0・1%とするマイナス金利政策も「副作用が効果を上回りつつある」とし、「異例の金融政策が今も本当に必要なのかを考えるべきタイミングだ」と指摘した。

■ジレンマ
 金融市場の関心は、新総裁就任後初めてとなる4月27、28日の金融政策決定会合に集まっている。市場関係者の間では、長期金利の上限を「0・5%から1・0%程度に引き上げるのでは」などと取り沙汰される。さらに、長期金利を金融政策の操作対象から外して上限自体の撤廃に動くとの観測も根強い。
 市場の裏をかく「サプライズ」を多用して信頼を失った黒田氏の情報発信を教訓に、植田氏は対話を通じて市場に金融政策の方向性を織り込ませるスタイルを志向するとみられている。
 ただ長期金利操作は、日銀が上限引き上げを示唆したとたんに大きな上昇圧力がかかり、大量の国債売りを浴びせられるため「最初の政策修正はサプライズにならざるを得ない」(三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩氏)というジレンマも抱える。市川氏は「日銀の言葉が信用を失わないよう、丁寧な対話姿勢が求められる」と注文を付けた。

■ハードル
 緩和修正のタイミングを探るとみられる植田日銀にとって新たなハードルとなりかねないのが、米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻や、経営危機に陥った欧州金融大手クレディ・スイスの救済合併を機に浮上した金融不安のリスクだ。
 金融システムの安定は物価の安定と並ぶ日銀の使命だけに、前金融庁長官で金融規制に精通した氷見野良三副総裁を含めた政策判断が注目される。
 異次元緩和の見直しに対しては、景気への配慮を求め政策修正に慎重な自民党内のアベノミクス支持派からの反発も予想され、植田氏は難しいかじ取りを迫られそうだ。

■将来の「正常化」に備えを 静岡経済研究所・恒友仁常務理事
 日銀新総裁に植田和男氏(71)=牧之原市出身=が就任した。従来の金融緩和策は当面継続されるとみられる。今後の日銀の動向と県内経済への影響について、静岡経済研究所の恒友仁常務理事に聞いた。
 日銀が10年続けた大規模金融緩和は、円安株高をもたらすなど日本経済にプラス効果もあったが、市場機能の低下や財政規律の緩みなど副作用もあった。植田総裁は経済環境を見極めながら、正常化に向けた出口戦略を打ち出す役割が求められる。
 需要が旺盛な欧米と異なり、日本は原材料価格の高騰に起因するコストプッシュ型のインフレが続く。実質賃金もマイナスの状況で、需要喚起策が急務だ。現時点での金利引き上げは国内経済へのダメージが大きく、新総裁が急激な政策変更に動くことは考えにくい。
 ただ、企業も家計も、将来的には金利は上がると想定し、資金繰りや資産形成への備えを講じておく必要がある。持続的な賃上げの流れを維持するためにも、企業はデジタル化や脱炭素対応、成長への投資を進め、生産性向上に努めてほしい。

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