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テーマ : 熱海市

潜在的な福祉課題、災害で露見 台風15号から1年 被災者支援で初めて把握

 静岡県中部、西部を中心に浸水害や土砂災害をもたらした昨秋の台風15号に伴う豪雨災害から23日で1年。被災者の生活再建を支援する静岡市地域支え合いセンターにはなお、新たな支援の要望が寄せられている。認知症やひきこもりなど福祉課題が災害によって顕在化しているケースが多く、関係者は長期的な災害支援とともに、平時から防災を切り口に地域の福祉課題の解決を目指す必要性を訴える。

被災した男性宅を片付ける地域支え合いセンター職員(右)とボランティア=9月中旬、静岡市清水区
被災した男性宅を片付ける地域支え合いセンター職員(右)とボランティア=9月中旬、静岡市清水区

 「本棚の本は捨ててもいいですか」「水にぬれたのは大丈夫」。9月中旬、支え合いセンター職員やボランティアが床上浸水した静岡市清水区の高齢男性(76)宅の片付けに入った。ぬれたカーペットは床に張り付き、家の中はごみであふれてほとんど被災直後のままだ。「最初は自分でも片付けをしたけど、量が多すぎて諦めた」と男性。罹災(りさい)証明で半壊の判定を受けたが、応急修理の申請はしていなかった。
 センターによると、男性には軽度の認知症の傾向がみられるが、福祉サービスは受けておらず、支援が行き届いていなかった。交通事故が重なり警察から地域包括支援センターに情報提供があって初めて、居住環境の実態が分かったという。「被災後、手付かずのケースは5月や6月にもあった」と地域支え合いセンターの大沢佑介センター長は明かし、「今後もゼロではない」とみる。
 2018年の西日本豪雨で、災害関連死を含めて59人が犠牲になった岡山県倉敷市の真備支え合いセンターの佐賀雅宏センター長は「実は潜在的な福祉課題を抱えていて、被災後に時間がたってから表面化するケースは倉敷でも複数あった」と説明する。時間の経過とともに、被災者のニーズも変わっていき、長期の支援が必要となる。顕在化した福祉課題は放置すれば再び埋もれるため、「災害支援から平時の福祉支援にスムーズに移行できるよう関係機関につないでいかなければならない」と強調する。
 熱海市伊豆山や全国各地で被災者支援に携わる鈴木まり子さん(63)=浜松市東区=は「人的、資金的なマンパワーが確保できる災害時は福祉課題を解決するチャンスでもある」と捉える。一方で「本来は災害時に課題が浮かび上がらないよう、平時に解決しておくことが最大の防災にもなる」と指摘した。
 (社会部・中川琳)

 静岡市地域支え合いセンター 市の委託で市社会福祉協議会が運営する。みなし仮設住宅などに入居する被災者を対象に見守り支援などを行う。市の支援ニーズ調査の結果やセンターに寄せられる情報を基に在宅被災者の支援も担っている。8月末現在の支援対象は41件。264件の支援が完了した。

全戸調査3割以上「不在」 静岡市実施
 台風15号後に静岡市が実施した被災者のニーズ調査。全約1万4千世帯を対象にしたが、うち35%に当たる約4900世帯は不在で、状況が把握ができていない。関係者は再調査やニーズの分析を求めている。
 調査は昨年11~12月にかけて2回行った。いずれも不在だった世帯には連絡票を投函(とうかん)してニーズを受け付けた。市担当者は「返答がなかったため、支援ニーズはないと判断した」と説明し、追加調査などを行う予定はないという。
 ひきこもりや認知症などの場合、「隠したい、恥ずかしい」といった感情や何に困っているのか自分で判断できないことがあり、支援する側の積極的なアプローチが必要となる。
 各地で災害支援を行っている災害対応NPO「MFP」の松山文紀代表(51)=静岡市清水区=は、「一度調査していても、支援が漏れていたケースが現にある」と指摘。「3割以上も状況が分からないのに、調査完了とするのは臭い物にふたをするのと同じだ」と再調査を求める。

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