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テーマ : 熱海市

各地方紙記者 取材事例報告【静岡で地方紙フォーラム】

遺族の言葉 道しるべに
河北新報社 池田旭記者
photo03 河北新報社 池田旭記者  6月12日で発生45年となった宮城県沖地震の取材で、犠牲者の家族を訪ね歩いた。「もう被災者ではない」「思い出したくない」と断られることが多かった。遺族に求められていないように感じ、節目で災害や事件を伝えることの意義を改めて考えさせられた。
 そんな中、妻を亡くした96歳の男性と出会った。東日本大震災の遺族が生死に向き合う姿から伝承こそが残された人の役目と感じ、断っていた取材に初めて応じてくれた。「妻の死を無駄にしたくない。6月12日だけは、あの日を振り返ってほしい」と語った。
 男性の言葉で、取材する意味を確かめられた気がする。失われた命が、私たちに問いかけてくることを伝え続けたいと思う。

教訓や防災 届いてこそ
信濃毎日新聞社 奈良つとむ記者
photo03 信濃毎日新聞社 奈良つとむ記者  長野・岐阜県境の御嶽山は、2014年9月の噴火災害で死者58人、行方不明者5人を出した。長野県や地元町村の火山防災の取り組み、遺族の思いを追ってきた。
 噴火時に逃げ込むシェルターなどの整備を受け、地元町村は今年7月、噴火災害で多くの死傷者が出た八丁ダルミの登山道の規制を緩和した。登山者が増える一方、安全面で不安が解消されていないと、緩和に否定的な被災者を取材した。
 噴火から9年がたち、ヘルメットを持参しない登山者が目立つ。自治体などによる災害の教訓や火山防災の情報発信は、住民や登山者に届いてこそ意味がある。社内の若手記者への継承を含め、風化させない伝え方の工夫を重ねたい。

住民と考える原発避難
新潟日報社 籠島歩美記者
photo03 新潟日報社 籠島歩美記者    昨年12月、東京電力柏崎刈羽原発が立地する新潟県柏崎地域で記録的な大雪が降り、原発事故時の避難経路2本が同時通行止めになった。住民から聞かれたのは「大雪で原発事故が起きたら逃げられない」という複合災害への不安だ。
 当時、原発事故が起きていたら避難できたのか、他の避難経路の状況も道沿いの人に聞き込みをするなどして検証した。大半の住民は逃げられず、避難計画の限界が浮き彫りになった。
 大雪時に住民が安全に避難できる方法はいまだ定まっていない。政府が原発回帰にかじを切った今だからこそ、住民と丁寧に向き合い、課題を取り上げることで原発事故時の住民の安全性を高められるような記事を書いていきたい。

群発地震 多角的に取材
北國新聞社 北脇大貴記者
photo03 北國新聞社 北脇大貴記者    能登半島先端の珠洲市で2021年春から群発地震が続いている。最大震度6強の揺れを観測した5月5日に特別号外を発行するなど、読者や被災者に寄り添った報道を続けている。
 災害報道では、日ごろから住民のそばで取材を重ねている地元紙の強みが生きてくる。避難所では、普段の取材を通して築いた信頼関係を背景に若手記者が住民の理解を得て建物内に入り、被災者の不安や希望を広く読者に伝えた。
 行政の発表に頼るだけでなく、ドローンを活用して地元の名所「見附島」の被害状況も独自に調査した。生活再建に向けた住民の取り組みや課題など、地元紙ならではの多角的な視点を持ち、今後も継続的な取材を続けていく。

雪被害 LINEで把握
京都新聞社 岸本鉄平記者
photo03 京都新聞社 岸本鉄平記者    今年1月、記録的な寒波の影響で京都は大雪被害に見舞われた。とりわけJR西日本の複数の電車が夜間、長時間にわたって立ち往生したトラブルは鉄道の危機管理の在り方に一石を投じた。京都新聞は読者からの情報提供ツールとして活用しているLINEを使い、列車内に閉じ込められた複数の乗客をリアルタイムで取材した。
 災害が同時多発的に起きると情報の空白が生じる。そんな時、現場から報道機関に対し、LINEを通じて写真や動画、音声などのデータをすばやく提供してもらえれば、被害実態を社会で共有しやすくなる。
 京都新聞では今後もLINEを災害時の情報提供窓口として活用してもらえるようPRを続けている。
「わがこと」のきっかけ
神戸新聞社 上田勇紀記者
photo03 神戸新聞社 上田勇紀記者  昨年11月から今年2月にかけ、神戸市立西灘小学校5年生が取り組んだ震災学習に密着し、連載記事などで紹介した。1995年の阪神・淡路大震災で犠牲になった同小5年の少女「アッコちゃん」を教材に、遺族や大学生らが協力して実現した授業は、子どもたちの心に深く刻まれた。
 兵庫県内で震災後生まれはおよそ4人に1人に上り、体験した教員も減っている。当時を知らない子どもにとって震災は「歴史」だが、工夫次第でその記憶や教訓は伝わると実感した。
 災害を「ひとごと」でなく「わがこと」にできれば、犠牲者を減らせる。震災から30年を前に、一つでも多くわがことにできるきっかけを、記事を通して提供していきたい。

被災地の今を見つめる
中国新聞社 下高充生記者
photo03 中国新聞社 下高充生記者    発生から5年を迎えた西日本豪雨の取材に取り組んだ。土石流や大規模な浸水により中国地方では災害関連死を含め250人が犠牲になっている。
 広島県内で一地区として最多の15人が亡くなった坂町小屋浦地区では、住民150人を対象にアンケートをした。心身の回復具合や復興状況への受け止めなどを、電話や郵送ではなく対面で聞き取った。住民の声をしっかりキャッチする狙いと同時に、地元紙として被災した地域とともにあり続ける姿勢を伝えたかった。
 広島では西日本豪雨の4年前にも広島土砂災害で77人が亡くなっている。読者に備えの大切さを伝え、命を守る意識を高める一助になれるよう、新聞としてできることを探っていく。

被災者目線で復興記す
山陽新聞社 古川和宏記者
photo03 山陽新聞社 古川和宏記者    2018年7月の西日本豪雨で、倉敷市真備町地区の自宅と実家が被災した。直後から現地ルポを書き、被災地の現状を発信し、復旧・復興が進むとともに変化する被災地の風景と心情を被災者の目線でつづる連載企画「まび日誌」を10月にスタートさせた。
 心がけたのは見えているもの、感じたことをそのまま記すこと。あくまで「個人的な思い」だが反響は大きく「被災者共通の思いなのかもしれない」と、書く意義を見つけた気がした。
 豪雨から5年。読み返すと、心情が変化している部分があったり、一貫して変わらないものがあったり。その時々の思いを書き残すことの大切さを実感する。今後も自分なりの視点で発信し続けていく。

災禍の流言を防ぎたい
高知新聞社 山崎彩加記者
photo03 高知新聞社 山崎彩加記者    高知県は近年、大きな災害がない中、100~150年周期で起きる南海トラフ地震を迎える。いきなり襲う大地震にどう備えるかが最大の報道課題だ。
 8月下旬、100年前の関東大震災と高知を結ぶ連載「流言禍」に取り組んだ。当時、流言により朝鮮人虐殺が起きた。過去の南海トラフ地震でも流言は起きていたし、むしろ現代はスマートフォンや人工知能の普及でより容易に広がりかねない。新型コロナ禍という「わざわい」でも私たちはデマを経験している。
 災害や疫病を含めた禍への向きあい方こそ新聞の使命。自然災害の発生は防げない。しかし人が人を傷つける禍は、過去に学び、地道に報道を重ねることできっと防げると考えている。

「見えない被害」に目を
熊本日日新聞社 臼杵大介記者
photo03 熊本日日新聞社 臼杵大介記者    2020年7月、熊本県南部を襲った豪雨は被災地の過疎化に拍車をかけた。被害が大きかった球磨村では被災後、人口が約4割減った。高齢者を中心に生活が便利な都市部への流出が進み、存続が危ぶまれている集落もある。
 熊本地震で被災した市町村の人口も、過疎地で減少が著しい傾向にある。東日本大震災など全国の災害でも同様だ。少子高齢化が急速に進む中、災害時に地域をどう持続させるかという視点が重要になっている。
 人命や建物などの被害に関する報道に限らず、過疎地の人口流出といった「見えない被害」にも目を凝らす必要がある。今後も取材を続け、次の災害の被害を少しでも減らせるような教訓を伝えていきたい。

若手担当 今後に生かす
南日本新聞社 中根壮太郎記者
photo03 南日本新聞社 中根壮太郎記者    鹿児島市周辺を襲った「8・6水害」が今夏で発生から30年となり、被災者に体験を証言してもらう企画や教訓を伝える連載に取り組んだ。過去の出来事の紹介で終わらせず、今後の防災に生かすことを心掛け、取材も当時を知らない若手記者らが担当した。
 8・6では土砂災害と浸水被害が同時多発的に起きた。自然災害は年々激甚化しており、急激に悪化する事態にどう備えるかは今も重い課題だ。当事者の生の証言から記憶を継承し、自分事として捉える意識が防災には欠かせない。
 遺族との関わり方も考えさせられた。節目に限らず何度も足を運び信頼関係を築くことが大切と感じた。過去の災害、遺族との向き合い方を考え続けたい。

災害法制の理解が大切
基調講演 永野海弁護士
photo03 永野海弁護士    昨秋の台風15号に伴う豪雨災害では、静岡市清水区を中心に浸水害が多く発生した。直後から生活再建に向けた相談支援に入った。これまでに弁護士会などで受けた相談は計1300件以上に上っている。その中で多いのは住宅の修理、修繕や罹災(りさい)証明の判定などに関する内容。「何日間も眠れない」「1人で抱えきれない」など精神的につらいままの被災者もいる。
 ちょうど相談者から罹災証明の判定が準半壊から半壊に変わったと感謝の連絡があった。準半壊と半壊では災害救助法に基づく応急修理の補助額が違ってくる。半壊ならばやむを得ず家を解体した場合には、被災者生活再建支援法に基づく給付で最大300万円もらえる。水害の場合、住宅の損壊具合が表面上、分かりにくく、判定が低く出ることがある。全国的にも問題になっている。
 国の被災者支援制度の給付対象は中規模半壊以上という報道がよくされる。これは半壊の判定を受けた人に「自分は関係ない」と誤解を与える。水害は全壊や大規模半壊と認定されることはほとんどなく、多くは準半壊かせいぜい半壊。国の支援金を本来はもらえる可能性がある人が諦めてしまわないよう、制度を正しく伝えることが重要だ。
 もう一点、「長期避難世帯」の認定も大事だ。ほとんど知られていないが、認定されれば住宅被害がなくても全壊と同じ扱いになる。熱海市伊豆山の土石流災害では、盛り土がまた崩れるかもしれないという典型的な長期避難世帯に該当する状況があった。静岡新聞の記者に知事会見で認定の意向を質問してもらった。最終的には警戒区域内の世帯が対象となった。実際に被害がなくても、住めないという点では家が損壊した被災者と同じだ。地域全体で支援に不平等があると、あつれきが生じて復興にも影響が出てくる可能性がある。
 災害救助法に基づく応急仮設住宅の提供は罹災証明がなければ受けられず、原則半壊は対象にならないなど、支援制度の課題は多い。記者には、複雑な支援制度や災害法制そのものの問題点を理解してもらい、課題の克服や制度の改善につながる行政への質問や報道をしてほしい。「こういう被害があった」と伝えることも大切だが、被災教訓から実践につながるヒントを紹介していくことも災害報道には求められている。
 ながの・かい 弁護士。日本弁護士連合会災害復興支援委員会副委員長。東日本大震災以降、各地で被災者支援に携わる。著書に「みんなの津波避難22のルール 3つのSで生き残れ!」など。45歳。

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