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育児の孤独埋めるのは地域、恩恵受けない人の不満も理解を... どうする少子化 国と地方ができることとは④キュレーター・読者の意見【賛否万論】

 国の少子化対策はかれこれ約30年に及びます。直近の関連予算は6.1兆円とここ10年でほぼ倍増した一方、年間の出生数は80万人を割り込み、過去最低となりました。政策効果が十分でないことは明らかで、手詰まり感が漂います。「賛否万論」では前回まで3週にわたり、政府が公表した対策の試案や地方自治体の参考事例、本県の実情を考えました。キュレーターや読者の意見を紹介します。

 キュレーター 寺子屋たっちゃんさん(静岡市)
私学教育に携わり50年超の人情家。「人は多士済々」。ことし後期高齢者となる。
 今回のテーマは国家、国民の一大事だと思います。各論として、こんな手がある、あんな手はどうだと考えても、全て帯に短したすきに長しではないでしょうか。歴史を振り返ってみると、人口の自然増と国家の施策としての増がありました。
 逆に人口減の原因は何でしょうか。この原因究明が第一になされるべき事例です。ここには社会構造上の問題(経済、税制、税政など)および国民の人口減に対する考え方の相違などが横たわっています。かつての“子は宝”という言葉が死語になりつつある現在、改めて“子は宝”を認識する必要があると思います。
 若い人が希望通り子を産み育てるには、人心を満足させる生活環境の保障、それを維持できる経済保障を政府が打ち出さなければなりません。財源に関しては門外漢のわれわれが意見を差し挟むことは無理なことです。税制が分かっていないからです。国家公務員や税制研究の専門家にこの任を担っていただき、納税のあり方、税の使い方などを示していただくことが肝要かと思います。その後、地方公共団体、企業、個人がこぞって協力する心構えが必要です。
 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での有能な指揮官、自利利他の哲学をわきまえた選手たち、チームを支えたスタッフの皆さん、そして資金を援助した企業、国民と、ここには今後の少子化対策に対するわれわれの心構え造成の良き見本があると思うのです。
 結論として、国家の政策、それに付随する地方公共団体の政策および国民の協力、実行が少子化対策の元だと思うのですが、いかがでしょうか。

 読者 井村たづ子さん(菊川市)70歳
 ようやく政府も少子化について考え始めたようだが、単に金をばらまけばよいと思っているようで感心しない。今のは少子化対策ではない。今の親世代への援助である対症療法に過ぎない。やらないよりはましだろうが。その根本は選挙目当てが見え隠れする。
 省庁の権益にとらわれた官僚に考えを聞き、大企業の利益代表に賃上げを要請しても、その数倍の税金を取るようでは誰が真剣に子どもを産み育てようとするだろうか。
 天文学的な大借金に手も付けず、天文学的に伸びそうな軍事費もまた負担に頼ろうとしている。そのつけはすべて子ども世代に負わせる気なのだ。
 私たちの世代は親のすねをかじり生きてきた。そのすねも痩せ細り、その上、子ども世代のすねまでかじろうとしている。今の政府のやり方をみているとそう思う。
 金よりも「今日よりも明るい日がくる」と思えば子どもの数は増えるのだ。若者もそのことを強く考えているとは思えない。選挙にも行かず、大学生になっても本も読まない。政治家のせいだけではないが。

 キュレーター 高木有加さん(長泉町)
1男1女の母。ママ防災塾マモルマムズ代表。レンタルスペース「ママとこどものヒミツキチmorisbase」の管理人。ミッションは「孤独な子育て、ダメ、ぜったい。」


 誰がなんと言おうと、出産は偉業です。人間を産み出して、何もできない状態から育て上げるという機械の技術力をもってしてもできない偉業。しかし、それはいつしか「躊躇[ちゅうちょ]する選択肢の一つ」になってしまった。
 上の子が1歳になった頃から、お向かいさんの老夫婦と仲良くなりました。家に上がってお茶を飲んだりおしゃべりをしたりするようになりました。おじいちゃんは息子を膝に乗せ、お孫さんが使っていたというミニカーや絵本で遊んでくれたり、おばあちゃんは庭のキンカンを取って食べさせてくれたり。本当に居心地のいい場所でした。
 週に一度、子どものお散歩の時間を使って、お向かいのおばあちゃんにも声掛けを手伝ってもらって「おさんぽ会」を企画しました。少しずつ近所に知り合いが増えて、2人でお散歩していると声をかけられることも増えました。寝室の位置も分かるほどに仲良くなっていましたから、もしも火事や地震が起きたときは、私はすぐに声をかけに行こうと思っていました。
 下の子が生まれて2カ月ほどして、上の子の頭に小さなハゲができているのを見つけました。赤ちゃん返りをしていなくても、息子なりにストレスを感じていたと反省。お向かいさんに話したら「幼稚園の送迎の間、赤ちゃんを見てるから、お兄ちゃんとの時間をつくるといいよ」。よその人だけど信頼関係があったからこその、うれしい言葉でした。
 息子が3年生になるとき、定員オーバーで3年生のほとんどが学童から退所になってしまい、同じ学童だった同級生の男子5人を、まとめて会社のキッズルームで放課後預かりました。夏休みも冬休みも、一緒に宿題やったり遊んだりけんかしたり。よその子も自分の子も、同じようにかわいかった!
 はるか昔から、人は「群れ」で助け合いながら子育てをしてきたんだとか。孤独な子育てを強いられやすい現在の環境。そこを埋めるのは、地域にほかならない。
 出産したことで「すみません」と言う回数が増えるのでなく、「ありがとう」と言われる回数が激増する社会に。でないと日本の人口は減り続けるしかなくなってしまう。

 読者 うるるんさん(御殿場市)40代
 これから出産する人、これから育児する人にだけ環境を整えようとする行政の考えは、問題の本質からズレていると思います。なんの恩恵もない周囲の不満の矛先は行政ではなく、目の前の子育て世代に向けられてしまいます。そうすると、出産や育児がますますしにくくなります。この悪循環を行政が理解していないことにいら立ちを感じます。制度を決定しているのは家庭や家族よりも仕事に重きを置いている世代の男の人が多いですよね。それもいい制度が生まれない理由かと思っています。
 所得制限の意味も分からないです。目的は全ての子どものために、のはずなのに。たとえ高所得でも、子ども3人が全員手当を受けられていないので、実際の生活は楽ではないです。3人それぞれの審査の対象基準が一律同じ年収の金額とは非常にがっかりです。行政は「平等」の意味をはき違えています。

 読者 桑原清剛さん(袋井市)
 少子化は今に始まったものではない。
 戦後のベビーブームのピーク時は年間約270万人の赤ちゃんが誕生していたが、2022年には約80万人というから随分と子育ては楽になったと思ったら、実際はそうではなかった。
 今や世界的に先進国は幼児教育から資本投下しなくてはならぬ時代になったから当然かもしれない。併せて高齢社会にも見舞われている。これらについては先進国の共通の問題のように思います。
 まずは、わが国の義務教育の完全無料化を目指したい。小学生から中学生までは、心身発達途上の子どもに負担を掛けても得るものはなく不安だけが残る。それと、将来を展望するに食料自給率の50%以上を目指したい。この二つは日本にとって差別の生じない事柄であり、国の目標にもなり得ると考える。
 例えばふるさと納税制度の返礼品に1次産品を充てるなど活性化を後押しすれば自給率アップにつながる可能性を秘める。
 ■キュレーター 「しずしんニュースキュレーター」は、新聞記事や時事問題の“ご意見番”として、静岡新聞の記者が推薦した地域のインフルエンサーです。毎回それぞれの立場や背景を生かしたユニークな視点から多様な意見を寄せてもらいます。

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