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現代書家 大杉弘子さん(袋井市)「書」を「書」で考えない【表現者たち】

 9年ぶりの地元での個展を前に、気勢がみなぎる。現代書家大杉弘子さん(76)=袋井市=は、徳川家康を主題にした今回展の淵源に大河ドラマ「どうする家康」を挙げる。

「一つ一つの文字にはそれぞれのエネルギーがある。それを正しく伝えたい」と語る大杉弘子さん=4日、袋井市
「一つ一つの文字にはそれぞれのエネルギーがある。それを正しく伝えたい」と語る大杉弘子さん=4日、袋井市
「東照大権現 厭離穢土欣求浄土」(二曲一双) 150×170センチ
「東照大権現 厭離穢土欣求浄土」(二曲一双) 150×170センチ
「IEYASU 南無阿弥陀仏」(二曲一双) 150×170センチ
「IEYASU 南無阿弥陀仏」(二曲一双) 150×170センチ
「一つ一つの文字にはそれぞれのエネルギーがある。それを正しく伝えたい」と語る大杉弘子さん=4日、袋井市
「東照大権現 厭離穢土欣求浄土」(二曲一双) 150×170センチ
「IEYASU 南無阿弥陀仏」(二曲一双) 150×170センチ

 「新しい史実、解釈。いいじゃない、私たちが習った歴史とは違っても。まさに『ポストモダン』」
 国民的ドラマからの影響をあっけらかんと語るのは、大杉さんの真骨頂だ。「厭離穢土欣求浄土[おんりえどごんぐじょうど]」をはじめとした家康の言葉、三河から身を起こし天下を治めるに至った道程を念頭に、気をためて筆を揮[ふる]った。
 1980年代から、同時代の文化芸術への興味関心をてこに「書」の世界を拡張すると同時に、文字の歴史を深く掘り下げるという、二律背反的な創作活動を続ける。ドイツ、英国、韓国など海外での個展、出品も重ねている。
 詩人吉増剛造さんに導かれ「ゆ」の字を繰り返して川の動きを表現した「ゆれる川」(81年)、「文字が人間の姿を表現している」と評された「上下」(87年)など、書の外部に存在するアート表現を無理なく自分の体に取り込み、作品として昇華させてきた。2000年ごろからは「文字のダンス」をはじめ、アルファベットや甲骨文字の動的な作用に関心を寄せた。
 「(19世紀フランスの詩人)ロートレアモンが『解剖台の上での、ミシンとこうもり傘の偶然の出会い』と言っていて、とても面白いと感じた。全然違うものが、あるはずのない場所にある。私も書道を書道で考えちゃだめだと思った」
 例えば、書道を建築で考える。水泳で考える。そして、身体で考える。文字の持つ霊的な意味性をさまざまな表現と掛け合わせる方法論を、次々実践してきた。背骨になっているのが、20代の頃に「昭和の三筆」の一人である師・手島右卿(1901~87年)にかけられた言葉だ。
 「『大杉のやっていることは造形だ』って。私はむしろその言葉を先生が知っていることに驚いた」
 以来、半世紀。今や造形を志向する書家は珍しくないが、大杉さんは今もその先端にいる。
 「なぜ人間が生まれ、なぜ文字が生まれたのか。その、とっかかりに行きつきたい」
 (教育文化部・橋爪充)

 「大杉弘子書界 家康ポストモダン」は27日から9月3日まで、袋井市の葛城北の丸で開かれる。

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