ひっつき虫ちくちく 賢い繁殖戦略【もっと自然遊び ちょこっとラボ⑪】
草むらや土手を駆け回ると、ズボンや袖口などに草の種がくっついて取るのに苦労します。迷惑な種たちですが、動物を使って子孫を広めようとする植物の巧みな繁殖戦略であることに、遊びを通して気づかせたいと思います。
通称「ひっつき虫」は、県内では「とびつかみ」とも呼ばれ、何種類もあります。どこにでも出没して取り外しにくい嫌われ者は、「ちくちくバンバン」「ちくちくボンバー」と呼ばれるコセンダングサ。2センチほどのラグビーボール形で全身トゲトゲのオオオナモミは最も貫禄があります。衣類に付けて絵を描いたり、仲間と当てっこしたりして遊びます。オナモミダーツは、フェルトなどで的を作り、図のようなつまようじを使って、投げやすいダーツ矢を作ると本格的。冬枯れした野辺でも、遊びの材料には困りません。
ひっつき虫で遊ぶ
上手に引っ付く不思議は、虫眼鏡を使うと謎が解けます。観察のこつはレンズを近づけるのではなく、顔ごと近寄ること。細かい所までよく見えてきます。オナモミはトゲだらけに見えますが、拡大すると、先端がとがったトゲではなく、丸いフック(かぎ爪)状になっていて、動物の細かな毛に引っ掛かって取れない仕組みです。ヌスビトハギやゴボウ、ヤブジラミなどの種も、フック状の毛で覆われています。
ところで、靴やバッグによく使われている面ファスナーは、ひっつき虫をヒントにして開発されたものです。生物が進化の過程で獲得した個性的な形状や構造をまねる技術(バイオミミクリー=生物模倣)が、私たちの生活を便利で豊かにしています。例えば、10年ほど前から見かけるヨーグルトが付きにくいフタは、水をはじくハスの葉っぱの表面をまねたもの。タコの吸盤や犬の肉球をまねて、滑りにくい靴底も開発されています。便利グッズの新発明の多くが、身近な生き物の観察から始まるんだよ。
<常葉大名誉教授=藤枝市、イラストも筆者>