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テーマ : 御殿場市

知事と静岡県議会・働き方を巡る報道テーマ 静岡新聞社 読者と報道委員会

 静岡新聞社の「読者と報道委員会」は2月13日、第38回会合を静岡市駿河区で開いた。議題は「知事と県議会」と「働き方を巡る報道」。NPO法人クロスメディアしまだ事務局長の児玉絵美委員、静岡理工科大学長・静岡大電子工学研究所長の木村雅和委員、富士川まちづくり株式会社代表取締役社長の伊藤高義委員の3氏が本社側と意見交換した。

㊧伊藤高義委員㊥木村雅和委員㊨児玉絵美委員
㊧伊藤高義委員㊥木村雅和委員㊨児玉絵美委員

 (進行は石川善太郎編集局長)

知事と県議会  木村委員 「政策」視点 啓発に力を
 児玉委員 政治と若者つなぐ鍵に
 伊藤委員 県政への強い主張期待

 川勝平太知事と県議会を巡っては、県政の課題解決に向けた政策論議よりも、自民会派などとの対立による政局が紙面をにぎわせました。本紙は、2021年11月から23年7月の間に知事辞職勧告決議案、不信任決議案が相次いで提出された背景や内情を報じ、停滞する県政への懸念を論じました。

 木村委員 川勝知事によるコシヒカリ発言を巡る全体の経緯が表にまとめられていて理解しやすかった。知事と県議会が対立している間、人口減少や少子高齢化問題など県が生き残りをかけて考えていくべき政策面での重要な論戦が滞っていたことは県民として不安にならざるを得ない。知事と県議会の対立の構図は、読者が関心を寄せる内容でもあるが、政策面に関しての県の課題や他県との比較など、知事や県議会、県民を啓発するような記事があると良いと感じた。

 児玉委員 コシヒカリ発言に関連して掲載した御殿場市民や浜松市民の声については、共感した読者も多かったのではないか。有権者の声を拾いつつ、どうすれば政治を進めていくことができるのかを冷静な視点で伝えることも新聞の役割だと感じた。発言内容など事実面だけでなく、その背景や、政治に関する基本的な知識も併せて報じることで、若い世代も含め県民全体が今の県政について考えるきっかけになるのではと期待している。

 伊藤委員 県には山積する多くの課題があり、それらの議論がなぜ進められないのか言及していってほしい。県民からの支持のもと4選を果たした川勝知事が自身の発言を巡り議論を呼んでいる姿や、地元への責任を背負っている県議会議員たちのことを、県民はどう評価しているのかも報じてもらえたら。報道には権力を監視する機能があるが、今回の知事や議会の一連の行動に関して、権力をチェックする役割を十分に果たしていたと感じた。

 現在の県政は政局中心で政策に焦点を当てにくい状況ですが、客観的な立場で混迷する県政を分かりやすく県民に伝え、世論を喚起していきたいと考えています。改めて、本紙における報道のスタンスについてどのように感じているか聞かせてください。

 児玉委員 若い世代の政治への関心を広げるという点で新聞は力を秘めている。(生きていくための力を身につける)リベラルアーツが重要視されていく教育現場では、若い世代が自然科学や芸術、哲学などと同じように政治について知識を深め議論することも重要ではないかと感じている。なぜ民主主義が大事なのか、現在の県政の実態はどうなのかなどを考える素材として、新聞が持つ可能性に期待を抱いている。

 伊藤委員 購読者の大半を占める県民に対し、県の政治の実情を丁寧に伝えるという役割は果たせている。一方で、人口減少や企業の経営資源の枯渇など、喫緊の課題が多くある現在の県政においては、社説などを通して新聞社としての主張を強く発信していく必要もあるのではないか。

 木村委員 県政の一連の動向について、知事と議会どちらの立場にも批判的に視座や社説で論じていた点は評価できる。地域の将来が本当にこれでいいのかを考えると、県民が危機感を感じるような記事がもっとあっても良いのでは。県が抱える課題を前向きに議論していくためにも、各自治体が地域の未来を真剣に考えられるような記事が報じられることに期待したい。

 来年に知事選を控えている中、県政には先送りできない課題もあります。知事選という大きな節目の前年として本紙の報道のスタンスも問われていくことになると思います。県政報道について、みなさまから注文や提言をいただきたいです。

 伊藤委員 人口減少や働き手不足など、県民の生活は政治と密接に関わっている。良い政治が行われることが自分たちの生活も向上することにつながるという点や、選挙でも県の未来を託せる人をどう選ぶかが重要だという点を、読者にぜひ伝えてもらいたい。

 木村委員 各候補者が県の未来像をどう描いているか、現在抱えている課題をどう解決していこうと考えているのかを報道ではっきり伝えていくことが重要ではないか。県民が正しいリーダーを選ぶためにも、新聞で正しい情報を発信してほしい。

 児玉委員 政治という分野において、見出しや記事の言葉は有権者の一票を左右するほど大きな意味を持つものだと感じる。分かりやすさを心がけながら、中立で客観的な視点も忘れずに有権者にこれからも伝え続けてもらいたい。

働き方を巡る報道 「70歳の壁」「迫る24年問題」  
 伊藤委員 課題多岐 丁寧に拾って
 児玉委員 生活者目線の取材 好感
 木村委員 外国人の雇用にも注目

 少子高齢化による人手不足が深刻化し、さまざまな場面で「働き方」が問われる時代を迎えています。高齢者の再雇用問題では、社会保障の問題に直面する人々が「働きたいのに働けない」事態に見舞われています。一方、運輸業界では働き方改革による人手不足やサービスの滞りなどが喫緊の課題です。静岡新聞ではそれぞれの雇用問題に「70歳の壁」と「迫る24年問題」というワッペンを付けて、昨年から継続的に報道してきました。

 伊藤委員 シニア雇用の難しさと運輸業界の人手不足などは、タイムリーかつこれからの重要な課題だろうと思う。「壁」というからには乗り越えなければいけない。少子化が叫ばれる中で、中小企業の新卒の採用は難しい。機械化といってもやはり人の力に依存するところは大きい。だから労働力はシニア世代に頼らざるを得ない。安定した経営を求められる中で、労働力をどう確保していくか。議論は外国人労働者の問題にも発展するだろう。世の中に散逸する課題を一つ一つ丁寧に検討し、答えを明確に提示してほしい。

 児玉委員 記者が問題意識を持って多角的な視点から社会課題を報じている。特にそれぞれの記事につけられたワッペンが目を引いた。ただ事実を拾うのではなく、現状の課題が生活者目線で検討されている点が良い。今後の紙面では、どんな支援が必要か、社会構造をどう変えていくかなどの根本的な課題解決策を示してもらえたら。それが同じく都市部の間に位置する他県の課題解決につながる可能性もあるのではないか。また「選ばれるだけの人」になっている印象があるシニア世代が、主体的に職を選んで働いている好事例を紙面で示してほしい。彼らが住みやすい世の中になるような報道を期待する。

 木村委員 細かなアドバイスが、これから職を求めようとするシニア世代に届く紙面と感じた。シニア雇用の間口の狭さも運輸業の人手不足も、表面的な課題というよりは業界の構造の改革が必要な問題といえるのかもしれない。性別や年齢など、今後日本の雇用では多様性が強く求められるようになるだろう。現状の困難から生まれる新しいビジネスが、解決につながるのかもしれない。記者の綿密な取材の中で見つけた課題の本質と、その解決策を紙面で示してもらいたい。

 人口減少が加速する中で、今後は人手不足に耐え得るような社会や職場づくりが必須となるでしょう。働き方を巡る問題は、シニア雇用や運輸業界だけにとどまりません。男性の育休制度充実や女性の就労環境の改善、長時間労働が問題となっている教員の働き方など、課題は山積みです。働き方を巡る報道のあり方について、ご意見をお願いします。

 児玉委員 働き方の意識改革は、その業界に従事している人々だけではなく、サービスの受益者や消費者にとっても重要な課題だ。例えば宅配のスピードばかり追い求めないとか。シニア女性が生き生きと働く好事例をぜひ同世代の人々に知ってほしい。紙面では多様な視点から、今後私たちがどのように意識改革していくべきなのかという問題提起を望む。多岐にわたる記事もワッペンを活用してまとめることで、読者により分かりやすく伝わるのではないだろうか。

 木村委員 男性育休の取得や教員の就労環境問題の解決には、やはり受益者や保護者の理解が必須。まだ紙面で取り上げられていないと感じるのは外国人の労働問題。少子高齢化による人手不足の中で、彼らの労働力は今後欠かせないものになるだろう。日本で学び、働く外国人の待遇改善や新しいビジネスについての報道も期待する。

 伊藤委員 コロナ禍を経験して、リモートワークや副業など働き方も多様化してくるだろう。定年や社会保障制度はこれまでと変わらざるを得ない。給与の格差は明瞭になり、新卒採用はさらに難しくなるだろう。その中で中小企業がどのように人手を確保し、効率的に事業を運営していくか。各社の工夫や頑張りを積極的に紙面に取り上げ、読者に勇気を与えてほしい。

 こだま・えみ NPO法人クロスメディアしまだ事務局長。子どもの社会教育と商業活性をつなぐ「こどもわくワーク」など、多角的な視点での地域づくりを企画運営。「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」主催。島田市出身、在住。児玉 絵美委員

 きむら・まさかず 静岡理工科大学学長・静岡大学電子工学研究所所長。静岡大学副学長、同大イノベーション社会連携推進機構長、同大理事(研究・社会産学連携担当)等を歴任し2022年4月より現職。専門は電子工学、半導体工学。静岡市清水区出身、浜松市在住。木村 雅和委員

 いとう・たかよし 株式会社清水銀行代表取締役頭取、鈴与商事株式会社常勤監査役などを歴任。現在は富士川楽座および道の駅富士の管理運営を担う富士川まちづくり株式会社代表取締役社長。早稲田大学法学部卒。富士市出身、在住。伊藤 高義委員
 編集局から
 ■政治部 川勝平太知事が4選した2021年6月以降、緊張がさらに高まる県議会自民会派との関係や県政への影響を報じてきた。政局につながる水面下の動きを丹念に取材し、動向を分かりやすく伝えることを意識しているが、同時に、山積する県政の政策課題を掘り下げ、問題提起する新聞の役割を再認識した。特に、県民生活や経済活動に直結する人口減少問題は、地元紙の使命として関係施策の検証と論評を強化していく。政治や選挙離れが顕著とされる若い世代に向けては、記事の届け方も含めもう一段の工夫に取り組む。

 ■社会部 少子高齢社会を維持する上で貴重な戦力である団塊世代は70歳を超えた。その世代が年齢を理由に社会参画を阻まれたり、諦めたりする場面が増えたのが「70歳の壁」の始まりだと考えている。人生100年時代の今、この壁は乗り越える必要がある。ただ、当事者の努力だけでは難しい。働くとは何かということから全世代を巻き込んで議論することが求められる。就活に悩むシニアの叫びだけでなく、前向きにシニア雇用に取り組む経営者の姿など明るい話題や好事例も数多く掘り起こし、皆で考える材料を提供していきたい。

 ■経済部 県内物流業は人手を確保したり、最新技術を導入したりして労働集約型の性格が強く他業種に比べ人手不足感が強く現れやすかった業界の改革を急いでいる。ただトラック運転手は輸送以外にも荷役や荷待ちといった業務があり、荷主の理解が深まらねば効率化を進めにくい。2024年問題は運転手の残業時間に上限が設定される4月以降、一段と影響が顕在化するだろう。物流は県民の日常生活に不可欠な物資の行き来を支える重要インフラの一つ。引き続き業界で起きる変化をつぶさに捉え、丁寧な報道を心がけたい。

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