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テーマ : 御殿場市

掛川市・掛川城下 葛布の伝統、未来へ紡ぐ 若い感性受け入れ進化【わたしの街から】

 4月に木造天守復元30年を迎える掛川市の掛川城。城下の商店街には歴史ある店舗が軒を連ねる。掛川城天守閣のふすまに使われているのは、市特産の葛布(くずふ)。芭蕉布(ばしょうふ)、榀布(しなふ)と並ぶ日本三大古布で、江戸時代に産業が栄えた。独特の光沢と丈夫さが魅力だが、現在の織元は城周辺にわずかに残るのみ。歴史ある工芸を次世代につなごうと若手が奮闘している。歴史ある店舗が軒を連ねる掛川城下。空き家の増加やにぎわいの減少も指摘されている=2月下旬(写真部・堀池和朗、本社ヘリ「ジェリコ1号」から)掛川市 掛川城下
 修業中の小崎将徳さん(32)は2023年11月、父が専務、おじが社長を務める小崎葛布工芸(同市城下)に入社した。販売員として店頭に立って知識をつけながら、職人としての研さんを重ねている。葛布は、横糸に葛の繊維、縦糸に絹や麻などを用いて織る。左手におさをもち、葛布を織る小崎将徳さん(右)。ベテランの野中啓子さんの指導を受ける=掛川市城下の小崎葛布工芸
 葛の繊維は繊細で扱うのが難しい。小崎さんが苦戦するのは「おさ」と呼ばれる横糸と縦糸を整える道具の扱い方だ。「手先は器用な方ではない。時間をかけて身につけていくしかない」と語る。織りかけの葛布。葛の繊維は繊細で扱うのが難しい
 小崎さんは幼いころから、織り手が作業する工房で遊んできた。都内の大学を卒業後、地元企業に就職して社会人経験を積んだが、技を身につけるには最後のタイミングだと一念発起。30歳を迎えて伝統工芸の道に進む決心をした。「葛布を残したいとの思いが強かった」と振り返る。
 指導に当たるベテラン織り手の野中啓子さん(75)は「若い感性が入るのはいいこと」と入社を歓迎する。おさの扱いに奮闘する小崎さんに「力が強いね。目が詰まっている」と優しく声をかけた。
 葛布を取り巻く現状は厳しい。手間のかかる葛の繊維を取る市内の農家は十数人に減り、高齢化も進んでいる。需要の大幅な拡大も見込めない状況だ。小崎さんは環境の変化を受け入れた上で「良さを残しながら、今の世代に響くように対応する。発信の仕方を工夫するなどして知名度を上げて、魅力を知ってもらいたい」と力を込めた。葛の繊維をまとめた「葛つぐり」葛布を使った製品掛川城天守閣の葛布のふすま=掛川市掛川
鎌倉時代から脈々  小崎葛布工芸によると、掛川が葛布の特産地として記録に残るのは鎌倉時代。武士のはかま地に用いられていた。江戸時代には裃(かみしも)地やはかま地として使用され、参勤交代の諸大名の土産品として珍重されたという。
 明治時代になると生活様式の変化により衰退したものの、ふすま地や壁紙としての用途で再び注目された。高級感が評判になり、海外からも注文が相次いだという。戦後は化学繊維の普及で需要は減少し、織元は市内で小崎葛布工芸と川出幸吉商店(同市仁藤町)の2軒のみになった。
 そんな中、葛布を後世に伝えるため技術と人材育成を目的とする官民連携組織「葛利活用コンソーシアム」が2021年に立ち上がった。売り上げの一部は後継者育成に役立てられる仕組みで、複数の大手企業が支援に入っている。
空き家 若者活躍の場に  掛川城下の市中心部は、空き家の増加やにぎわいの減少が指摘されている。居酒屋がにぎわう夜に比べると昼間の人出は少ない。高校生らの居場所を求める声も上がる。
 掛川市のNPO法人かけがわランド・バンクは市中心部の空き店舗を交流拠点に改装したり、空き家のマッチングを手がけたりして空き家問題の解決を図っている。地域活性化に向けて、静岡理工科大とも連携を深める。
 長らく空き家になっていた「松浦履物店」(同市中町)では、学生らが片付けなどに協力し、居住兼ブックカフェとして活用するための準備が進む。同法人が所有者との橋渡し役を担った。担当者は「今あるものを生かして学生や人の居場所になるような活用ができればいい」と語る。
城主開運のどら焼き 伊藤菓子舗  城下町の面影を残す掛川市中町商店街に店を構える老舗和菓子店「伊藤菓子舗」。「黒黄金(くろがね)どらやき」は看板商品の一つだ。時間や温度に気を配って炊いたあんと、黒砂糖を使った生地が特徴。山内一豊が掛川城主となる前、妻の千代が黄金10枚で名馬を手に入れ運を引き寄せたとの故事にちなんで名付けた。「黒黄金どらやき」を紹介する伊藤光男さん=掛川市中町の伊藤菓子舗
 4代目店主の伊藤光男さん(66)が開発した。市民を中心に「今まで食べたどら焼きの中で一番おいしい」「どこに持って行っても恥ずかしくない」と評判だという。
 伊藤菓子舗は1892年創業。どらやきのほかにも「家伝本かすてら」や「火の羊羹(ようかん)」など多くの菓子が親しまれている。火の羊羹は昨年、掛川市で開催された王将戦で藤井聡太王将と羽生善治九段が対局初日のおやつに選んだことで注目を浴びた。
 伊藤さん1人で菓子づくりを担う。「店は自分の分身のようなもの。長く続けていきたい」と市民に愛される味を守る決意は固い。

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