Ｊ―クレジット認証へ 先進「御殿場型モデル」始動 地域通貨に生かす【ニュースＢＯＸ】
森林経営による温室効果ガス削減の環境的価値を国が認証する「Ｊ―クレジット」により具体的利益に変換し、デジタル地域通貨（富士山Ｇコイン）の財源とする御殿場市の計画「御殿場型モデル」が動き出す。今月末に国のクレジット事務局に計画が登録される見込みで、クレジット発行の下地が整う。同市の自然環境や森林管理の特徴、デジタル地域通貨の普及などの強みを生かし、環境と経済の両立を図る全国的にも先進的な取り組みとなる。
Ｊ―クレジット制度では温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国独自のクレジットに変換して認証する。発行されたクレジットは売買可能で脱炭素社会の実現に向けた貢献や環境に優しいイメージのＰＲ、環境目標の達成などの理由から購入する企業が増加傾向にある。クレジット事務局によると、認証プロジェクトは太陽光発電や風力発電設備の導入、バイオマス燃料の活用、照明のＬＥＤ化によるエコ活動など多種多様。全国１０４９件のプロジェクトが認証済みという。
同市と裾野市、小山町の北駿３市町が連携し、デジタル技術を生かしながら脱炭素と経済の好循環を図る「富士山東麓エコガーデンシティ地域循環共生圏」は２０２３年１月、県の「ふじのくにのフロンティアを拓（ひら）く取り組み」第３期の「ふじのくにフロンティア地域循環共生圏」として静岡県内第１号認定を受けた。御殿場市は御殿場型モデルを活動の第一歩と位置づけ、同年にクレジット事務局に登録を申請した。
団体、組合と協調
同市は総面積約１万９５００ヘクタールのうち約５６％の１万１千ヘクタールを占める富士山麓の豊かな森林を生かす。２２年度版の県森林・林業統計要覧によると、同市は合併前の旧町村に由来する公共団体である五つの財産区が３千ヘクタール超の森林（一部は東富士演習場用地として国に貸し付け）を有し、市内法人などが私有林として持つ森林面積も大きい。クレジット発行は森林経営計画が定められていることが必須条件となるが、これらの団体から経営委託を受けた市森林組合が既に策定している森林も多い。財産区や法人、市森林組合と協調することでクレジット申請がスムーズに進むことも同市の大きな強みとなっている。
市は２３年７月、御殿場財産区が同市東田中地区に所有している約１５ヘクタールの森林について、整備を担う市森林組合を交えてクレジット創造や売却益分配、木材の積極的な利活用を約束する合意書を締結した。さらに２４年２月には、市内の中畑愛郷会が同地域循環共生圏内の裾野市葛山に所有し、御殿場市森林組合が整備する約１２５ヘクタールの森林についても合意書を交わす方針。市は「今後は取り組みをさらに広げたい」としている。
広まるＧコイン
デジタル地域通貨「富士山Ｇコイン」の運用が始まったのは２２年７月。約１年半が経過した２４年１月１８日現在で、利用者は市の人口の半数を上回る４万８千人にまで急速に増加した。市によると、利用可能店舗は約３６０店に拡大し、これまでの流通量は約２０億円に上る。杉山芳三市商工会長は「Ｇコインは間違いなく、市内経済を活性化させる大きな要因の一つ」と話す。
市はこれまで、Ｇコインを単なる決済サービスで終わらせず、プレミアム商品券事業をはじめエコ活動、地域行事、健康マイレージと連携した特典付与など、地域活動の活性化や経済の循環を促すツールとしての活用を推進してきた。勝又正美市長は「人口の半数以上に普及したことで、さらに多くの施策に絡めることができる。重要性が増している」と力を込める。
市によると、一般例として森林経営１ヘクタール当たり二酸化炭素（ＣＯ２）吸収量は１年間で約５トン増え、生み出されたクレジットは５万円程度で取引されることが多い。財源面でデジタル地域通貨の自立自走を目指している点も、御殿場モデルが全国的な注目を集める理由の一つとなっている。
“地産地消”視野
市は今後、４月以降に２３年度分のクレジットの認証を申請し、２４年度末までには最初の売買取引を行う方針という。市企画課の佐藤哲治課長は「地元企業がクレジットを購入する“地産地消”も提案していきたい」と語る。
このほか、市は東京証券取引所が２３年１０月１１日に開設したＣＯ２排出量取引市場「カーボン・クレジット市場」にも県内自治体として初登録しており、売却の一つの手段として想定している。同市場には大企業を含む２００超の団体が参加している。市場を通じた取引を行うことで、環境先進都市としてのＰＲやブランド力の強化、国内外の環境先端企業、高付加価値産業の市内誘致などにもつなげていく考えという。
（御殿場支局・塩谷将広）
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