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「反省の言葉聞きたい」 京アニ元社員大村さん(菊川出身)の地元関係者、全容解明望む

大村勇貴さんの絵本を手に、思いをはせる高木久直さん=5日午後、掛川市掛川の高久書店 アニメーターになる夢を目指した菊川市出身の大村勇貴さん=当時(23)=ら36人が犠牲になった京都アニメーション放火殺人事件。大村さんとゆかりのある地元関係者は、4年を経て開かれた5日の初公判を受けて「ようやく裁判が始まった」「反省の言葉を聞きたい」と全容解明を強く望んだ。大村さんを失った深い喪失感は癒えず、「事件を風化させてはいけない」との思いを強くしている。
 大村さんは常葉大在学中、松崎町を舞台にした絵本「うーちゃんのまつざき」を創作した。菊川市の田んぼアート菊川実行委員会は事件後の2020年、絵本に登場する竜の絵柄を田んぼに描いた。実行委の池田正代表(79)は「起訴内容を認めたことは当たり前。早く自分の口で説明してほしい」と公判の行方を注視する。
 大村さんは幼少期、池田さんが経営していた観光農園によく遊びに来ていたという。池田さんは8月、大村さんの家族と一緒に松崎町を訪れた。来夏の田んぼアートは、事件から5年の節目を意識して、再び絵本から題材を選ぶことを検討している。「亡くなった人は帰ってこない」とやるせなさを口にする一方で「事件を忘れてはいけない」と語気を強めた。
 掛川市で書店「高久書店」を営む高木久直さん(52)は、大村さんの家族から絵本出版の相談に応じてきた。初公判を受けて「身勝手で怒りにまかせた行動。反省の言葉を聞きたい。生涯をかけて償ってほしい」と憤る。発売以来、絵本は店頭で平積みを続けている。「風化させてはいけない。まちの本屋さんとしての使命」。売り切れないよう在庫を確保しているという。
 (掛川支局・山本萌絵佳)

傍聴の遺族「あまりに身勝手」
 京都アニメーション放火殺人事件で亡くなった寺脇(池田)晶子さん=当時(44)=の夫(50)は5日、被害者参加制度を利用し初公判を傍聴した。閉廷後、取材に応じ青葉真司被告(45)について「あまりにも身勝手だ。妄想の一言では納得できない」と語った。一方、「(青葉被告が)なぜこんなことをしてしまったのか、原因に目を向けてほしい」とも述べ、悲劇を繰り返さぬよう社会が取り組むことを願った。
 未来へと進むには自ら見聞きした内容を晶子さんと小学6年の長男に報告する必要があると考え、この日法廷に入った。
 公判で青葉被告の生い立ちや動機を聞き「助けてくれる人がいなかったのはかわいそうかもしれないが、(事件で)それ以上にかわいそうな人が出ると想像できなかったのか」と話した。検察側が被害者の状況を説明した場面では、被害の大きさを改めて実感したといい、「きつかった」と声を震わせた。
 青葉被告の量刑は「関係ない」とも話す。「4年過ぎても、つらい思いをされている方がいる。模倣犯を疑うような事件も起きており、これからも起きる可能性が否定できない」。裁判を通じ社会全体で考えてもらいたいと訴えた。

顕著な他責的傾向が影響か 精神科医 片田珠美さん
 京都アニメーション放火殺人事件の初公判で注目したのは、検察側の冒頭陳述で述べられた「自分の人生がうまくいかないのは、京アニのせいだと妄想していた」という部分だ。青葉真司被告の他責的傾向が顕著に表れており、精神疾患による被害妄想の影響を疑わざるを得ない。犯行動機を考える上で一番重要になるだろう。
 この事件は、典型的な無差別大量殺人だ。米国の犯罪学者レビンとフォックスによると無差別大量殺人は①長期にわたる欲求不満②他責的傾向③破滅的な喪失④コピーキャット(模倣)⑤孤立⑥武器の入手-という六つの要因が積み重なった結果として起きる。検察側の冒陳などから、青葉被告の場合もこれらの要因が重なっているように思える。
 罪状認否での青葉被告の「こうするしかないと思った」という発言からは、事件当時のかなり追い詰められた心理状態がうかがえた。「こんなにたくさんの人が亡くなるとは思わなかった」という言葉からは想像力の欠如と現実検討能力の低下が分かる。これらの点も争点である責任能力の有無を判断する上で大切だ。責任能力の有無とともに重要なのが、青葉被告が法廷で何を語るかである。そこから、近年繰り返される無差別大量殺人を食い止めるための教訓を見いだす必要がある。
 今後の焦点は、犯行動機の形成過程を巡る被告人質問だ。「自分の小説を盗まれた」という従来の主張を繰り返すだけなのか、それとも、過酷な人生が大きな影響を及ぼしているのか。審理の行方を注視したい。片田珠美さん

犠牲者19人 匿名で審理
 京都アニメーション放火殺人事件の初公判で検察側は、犠牲者36人のうち17人の実名を挙げる一方、19人は「別表1の2」「別表1の18」「別表1の36」などと匿名とした。19人の年齢は24~49歳で、死因は焼死や一酸化炭素(CO)中毒死などだった。性別も明らかにしなかった。
 京アニ事件では2019年7月の発生当初から犠牲者の実名公表の是非が議論となっており、プライバシーの保護を求める遺族の要望に配慮したとみられる。
 刑事裁判の法廷で被害者の氏名や住所を伏せて審理できる制度は、被害者参加制度とともに07年の法改正で新設された。性犯罪のほか、被害者の名誉や社会生活の平穏が「著しく害される」懸念がある場合も対象だ。

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