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高齢化集落の災害時孤立 福祉支援の体制強化を【検証 24年度 静岡県予算案㊥】

 災害発生時、下田市で孤立が予想される須原二区。大半は土砂災害警戒区域で、特別警戒区域もある。「数年前に比べて動けない高齢者が増えた」。区長の土屋紀元さん(66)は大雨で崩落を繰り返し、土のうが積まれた斜面を見つめ、南海トラフ地震などの大規模災害に不安を募らせた。地区内2集落で計30世帯が孤立する可能性がある。人口構成は70~90代が中心で、50代以下が極端に少ない。避難行動要支援者は15人。介護サービスを受けている人もいる。「昔からの連帯感でどこまで助け合えるのか」

崩落を繰り返し土嚢が積まれた斜面。土屋紀元区長は孤立時に「高齢者を支えられる世代が少ない」と懸念する=8日、下田市
崩落を繰り返し土嚢が積まれた斜面。土屋紀元区長は孤立時に「高齢者を支えられる世代が少ない」と懸念する=8日、下田市
孤立支援や能登半島地震を受けた災害対策事業
孤立支援や能登半島地震を受けた災害対策事業
崩落を繰り返し土嚢が積まれた斜面。土屋紀元区長は孤立時に「高齢者を支えられる世代が少ない」と懸念する=8日、下田市
孤立支援や能登半島地震を受けた災害対策事業

 能登半島地震では道路の寸断や土砂災害などによる孤立が一時、24地区3千人に上った。能登半島の高齢化率は50%前後と高く、孤立に高齢化の課題が重くのしかかった。災害による直接死だけではなく災害関連死をいかに防ぐか、医療、保健、福祉の切れ目のない支援が求められている。
 輪島市門前地区の保健所支援に当たる静岡県感染症管理センターの後藤幹生センター長は「孤立しやすい集落ほど高齢化が進み、福祉ニーズも高いが、支えるマンパワーは不足している」と強調する。県内でも伊豆半島や県中西部の中山間地で高齢化率が高い。
 県内の孤立予想集落は397カ所。県は長年、衛星携帯電話などの通信手段や、道路寸断時の空や海からの輸送ルート確保に取り組んできた。96%で通信手段の整備が完了し、ヘリコプターの離着陸やつり上げ装置を使うスペースは計391カ所ある。海上自衛隊などの船舶が接岸できるよう、漁港や港湾の岸壁の耐震化も順次進めている。県は2024年度、孤立地域へ物資を搬送するために新たにドローンを配備する。
 下田市須原二区はヘリの活動場所がない。「物資輸送ができるのはありがたい。ただ、一番困るのは医療や福祉だ」。土屋区長の懸念は尽きない。
 静岡大防災総合センターの岩田孝仁特任教授は「孤立対策を考える上で、日常的に福祉ケアを受けている被災者の視点が不可欠になっている」と指摘する。一方で、「災害救助法に福祉が位置付けられておらず、支援は後回しになりがちだ」と課題を挙げる。
 南海トラフ地震は県内全域が被災する。県社会福祉協議会によると、避難所で活動する本県の災害福祉派遣チーム(DWAT)は、迅速な活動が展開できるとは限らない。周辺自治体も被害を受け、外部からの早期支援は望めない。県社協経営支援課の松永和樹課長は「広域災害を見据えると、本県の災害福祉対策は十分とは言えない」と話す。
 全国社会福祉協議会は、平時の個別避難計画作成や災害時の福祉支援調整を総合的に担う組織の設置を県と県社協に呼びかける。担当者は県に対し「危機管理と福祉部門が垣根を越えて体制を構築してほしい」と訴えた。
 (社会部・中川琳)

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