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上原美術館 アンリ・マティス「鏡の前に立つ白いガウンを着た裸婦」画家のまなざしと交錯【コレクションから⑥】

 ここは南仏ニースにあるマティスのアトリエ。窓から差し込む光は人体の朱色の線であらわされ、穏やかな紫の影を落とす。ガウンの白には少しだけ緑が混ぜられることで、補色の赤と呼応して、光の振動さえ感じさせる。そのわずかな緑は後ろの鏡に広がり、不思議な奥行きを生む。大きな鏡の左側には、この絵を暗示する白いキャンバスが映り込む。われわれのまなざしは、いつしか本作を描くマティスのまなざしと重なり、見るものを鮮やかな空間へと引き込んでゆく。

上原美術館 アンリ・マティス「鏡の前に立つ白いガウンを着た裸婦」(1937年)
上原美術館 アンリ・マティス「鏡の前に立つ白いガウンを着た裸婦」(1937年)

 本作はコレクター和田定夫氏が旧蔵した作品。銀行の駐在員として渡欧した和田氏は、本作が描かれた翌々年、画家・猪熊弦一郎夫妻とともにマティスのアトリエを訪れた。和田氏は間もなくマティスから本作を譲り受ける。その後、第2次世界大戦が勃発し、作品をフランスへ預けたまま帰国。終戦後、ようやく日本に持ち帰ることができた。
 晩年、伊豆に居を構えた和田氏は、生涯この絵を大切にした。和田氏の元を離れた本作は偶然の縁がつながり、今は伊豆の山あいにある上原美術館に収蔵されている。
 絵には画家やコレクターのまなざしが幾重にも重なっている。作品を眺めながら、その来し方を味わうのもまた楽しい。(土森智典・主任学芸員)

 メモ 下田市宇土金341<電0558(28)1228>
 「鏡の前に立つ白いガウンを着た裸婦」は9月24日まで開催する「上原コレクション名品選」に出品。

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