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テーマ : 教育・子育て

「好き」が集う老若男女 開かれた稽古と交流の場【町道場のいま~かわる柔道界~㊥】

 静岡市駿河区の高松中学校。平日の午後7時ごろ、柔道場に道着姿の老若男女が集まり始めた。一目見て、他の道場と比べて明らかに子供より大人の数が多いことが分かった。

老若男女が集う駿河柔心会の稽古=11月中旬、静岡市駿河区の高松中
老若男女が集う駿河柔心会の稽古=11月中旬、静岡市駿河区の高松中

 同所を拠点に活動するのは2019年に設立された駿河柔心会。道場主の植田秀さん(62)が約2時間の稽古の間、穏やかなまなざしを送り続ける。
 少年主体の道場が多い中、老若男女が稽古できる場を提供したい-。かつての自分の指導者の考え方に共感し、六段昇段を機に団体を立ち上げたという。
 植田さんは中学3年で一度柔道から離れた。再開したのは31歳の時。「自分も強かったわけではなく、18年くらい柔道とは無縁の生活をしていたほど。だから弱い者の気持ちが分かる」。それ故だろうか。同会には大人になってから始めた会員も多い。転勤などさまざまな事情で道場を移る人もいるが、来る者は拒まず去る者は追わずの方針。「どこにいても柔道を続けてくれることが一番だから」
 練習前、最年長の腰原信八さん(73)がほうきを手に丁寧に畳を掃き進めていた。昨年、約35年ぶりに柔道を再開したという。「ここでは子供や若者から社会人までいろんな人と交流できる」。これまでも現在も柔道がつないだ人の縁を大切に感じていると目を細める。「いつまで続けられるか分からないが、週1回だけでも畳に立ちたい」。長く続けるにはけがは大敵。入念に準備体操を始めた。
 練習の前半1時間は基本動作や技の習得の時間に充てる。指導する北嶋良介さん(38)は頭ごなしに叱りつける指導はしない。中学生で柔道を始めたころから「考えて柔道をすること」を教わった。その経験を生かし、この動作はどの場面で使うのか、なぜこの方向に相手を引き出すのか、一つ一つ丁寧に解説する。相手が小学生でも、大人でも同じだ。「柔道を通じて出会い、いろいろな話をする中で交友が広がる。柔道以外の見識が増えた」。柔道への感謝は尽きない。
 練習は後半にさしかかり、実践練習の乱取り稽古が始まった。思い思いに相手を見つけ、それぞれのペースで組み合う。
 「ヤー!」「もう一回、連続連続!」ひときわ明るい声を上げるのは鈴木茉莉さん(26)。藤枝順心中・高から山梨学院大に進み、全国でも屈指の強豪校で厳しい練習の日々を送った。もう十分だと柔道から距離を置いても不思議ではないが、競技の一線から離れた現在も道着に袖を通す。
 「今の目標はけがなく楽しく続けること。だって柔道を嫌いになりたくない」
 柔道が好きだから―。そんな気持ちを持つ誰もが柔道に関わり続けられる場がそこには開かれていた。

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