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テーマ : 教育・子育て

ぬくもり欲しかった 愛し方わからなかった父【貧困連鎖からの脱出 伴走型支援の挑戦(27)第2部 ネグレクト編】

 「もう、全部投げ出して実家に帰りたい。お父さんに会いたい!」。定時制高校で最終学年の4年の夏前、木下理奈はおばの純子と言い争った末、出ていくと宣言した。卒業したいし、本当はいたかったが、やけになってつい言ってしまった。

撮影・中藤毅彦
撮影・中藤毅彦

 「じゃあ、帰ればいい。切符は買ってあげる」
 売り言葉に買い言葉で純子が言った。翌日、駅のホームで見送られ、東北新幹線に乗った。携帯電話で父の達也に「おばさんに追い出された」と話すと、達也は言った。
 「やっぱりか」
 東北地方の実家に戻ると、兄夫婦と折り合いが悪い達也は「思った通りだ」と口にした。
 しかし、達也は娘との同居を嫌がった。理奈は父にこんな言葉を繰り返し聞かされて育った。
 「おまえは『愛されてない』と言うけど、じいちゃん、ばあちゃんはかわいがってたぞ。俺なんか15歳で家を出された」
 理奈は「愛された経験がない父は愛し方が分からないんだ」と感じる。
 父は生活保護を受けており、同居するなら手続きが必要だ。高校はどうなるのか。中途半端なままの帰省で理奈は途方に暮れた。埼玉県の無料塾「アスポート」の支援員、大森徹は悔やむ。
 「本当に実家に帰されると思わなかった。行く前に何とかできれば…」
 そんな時、友人が連絡をくれた。姉が入る宗教団体の行事が埼玉であり、一緒に行くなら夜行バスの切符を送るという。
 理奈は「乗らない手はない」と思い、千載一遇のチャンスと大森に電話した。大森も「この機会を逃せない」と感じた。
 埼玉に戻ると、行事には参加せず、「住む所を探す」と言って逃げた。大森や担当支援員の小川敬子の支えで生活保護を受けつつ、高校に通った。だが、人間関係でつまずき、精神的に落ち込んでリストカットする騒ぎに。精神科病院に入院したが、退院後は高校の課題に向き合った。
 卒業が迫った1月。理奈は無料塾の教室に入ると、まず定位置のソファに座った。室内は机が並ぶ学習エリアと、ソファや畳のくつろぎエリアに分かれている。理奈はなかなか机の前に座れず、サボりたがった。だが、プリントの課題提出が卒業の条件。のんびりできない。付きっきりで教えた小川が激励する。
 「高校を卒業するんでしょ。頑張らないと」
 背中を押され、何とか卒業できた。理奈は「活を入れてもらって頑張った」と笑う。小川は「私も頑張ったよ。高校を卒業させられたのは大きな成果です」と強調する。
 支援は卒業までの決まり。1人暮らしをするまで支えてもらった。後は自力で生きるしかないが、まだ支えが必要だ。
 そこに救いの手が伸びた。高3の後半から通った「子ども食堂」。食事も出していた無料塾とも、食材の融通などで交流があった。卒業後はスタッフとしてつながった。
 (文中仮名)

 

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