あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 教育・子育て

宿題や家庭学習どう取り組ませる? ①静岡県内学校、独自の施策【賛否万論】

 「宿題やった?」「勉強しなさい」-。子どもたちを自主的に机に向かわせ学習習慣を定着させることはいつの時代も保護者の悩みの種です。児童生徒へ情報端末が付与され、探究学習の取り組みなどが活発化する現代は、保護者世代が経験した教育環境と大きく異なり、宿題の内容や家庭学習のあり方、放課後の過ごし方も変わってきています。今回の賛否万論は、文部科学省が学習指導要領でうたう「個別最適な学び」の実現に向け、宿題や家庭学習などの“放課後の学び”に対し独自の施策に取り組む県内の学校を紹介します。あなたは子どもたちにとってどんな“放課後の学び”が理想だと思いますか?
 (社会部・薬袋貴信)

学校や家庭 続く試行錯誤 県内保護者7割「塾や習い事 負担感じる」
 「覚えて書けるようになった漢字をなんで何度も書かなきゃいけないの?」
 静岡市駿河区のパート従業員の女性(44)は、漢字の書き取りの宿題をする小学生の息子から質問された際、返答に困りました。自身の経験で宿題は「出されたものはやる」ことが当たり前で、その内容を疑問に思うことはなかったからです。なぜこの宿題をやらなくてはいけないのか、息子の言葉で初めて、画一的な宿題の出し方に疑問を覚えました。
 宿題の主な役割には学習習慣の定着化や自立性の養成があります。全国の公立小中学校を対象に国立教育政策研究所が2023年に行った「全国学力・学習状況調査」によると、県内の小学生は、「自分で計画を立てて家で勉強している」とする割合が全国平均を上回った一方、「(塾などの時間も含めた)学校の授業以外で行う1日あたりの勉強時間」を2時間以上と回答した割合は小中とも全国平均を下回っています。
 また、静岡経済研究所によると、約7割の保護者が子どもの塾や習い事にかかる費用に「負担を感じる」と回答し、経済的負担が子どもの教育に影響を与えていることもうかがえます。
 小学校英語の教科化やプログラミングなど新たな分野が増える中、学習時間の確保や家計の面でも主体的な学びの実現に向けて学校や家庭では試行錯誤が続きます。

放課後は塾講師常駐/AIで個別対応の出題 静岡聖光学院中・高
放課後学習支援で個別指導を受けたり自習に取り組んだりする生徒=1月下旬、静岡市駿河区の静岡聖光学院中・高静岡市駿河区の静岡聖光学院中・高では、東京都内の学習塾と連携した「ASG(アフター・スクール・ガイダンス)放課後学習サポートシステム」を2021年に県内で初導入しました。校内に塾講師2人が常駐するとともに、AI(人工知能)を用いたオンライン学習教材で生徒の解答を分析・蓄積することで、個々に適した演習問題を出題し生徒の学力向上を支援します。
 全校生徒の約3割を寮生が占める同校。同市郊外にある学校敷地内にある寮から校外の学習塾に通うことは難しく、学習習慣の定着と時間確保を目的に同システムを導入しました。平日の授業が終わると、ASGルームと呼ばれる専用教室に生徒は三々五々集まり、それぞれ自由に勉強を始めます。教室の外には塾講師が控え、生徒の質問に対応します。生徒の学習内容や進度は学校と塾で共有し、それぞれの生徒に合った助言を行っています。
 寮生で神戸市出身の後藤光三郎さん(15)は「自分が何を勉強したらよいかが明確になる。授業では聞きにくい不明点を即座に聞けることもありがたい」とメリットを強調します。田中潤教頭は「現在では通学生も含め約200人が利用している。塾というより『第二の担任がいる自習室』という感覚。生徒自らが学習計画を立てることで、自立的な学習習慣が定着してきている」と手応えを示します。

「宿題」廃止/家での取り組み 自ら計画 函南・丹那小
児童と担任が学習予定と振り返りを共有する丹那小の「自分みがきタイム」の画面「今日は漢字プリント1ページと総合学習のスライド作りをやります」-。函南町立丹那小では、1日の授業の終わりに児童が各自でその日に家庭で取り組む学習内容を発表します。全校児童約60人の同校は、2022年11月から、全学年で児童に課していた宿題をやめました。代わりに導入したのが、児童自らが家庭学習の内容や量を決めて行う「自分みがきタイム」です。
 「自分みがきタイム」は、学校支給の情報端末に「授業の振り返り」を記入するところから始まります。児童は「漢字・算数・音読・読書・その他(お手伝い、調べ学習、体力づくりなど)」の5項目から自分で内容を決め、担任教諭らと共有します。1日に複数の項目を実施したり目標期限を決め学習量を配分したりと取り組み方はさまざまです。何をやったらいいか分からない児童には、担任からプリントや課題を与えることもできます。
 導入のきっかけは、同年7月に行った学校評価アンケートで「自分から主体的に学習に取り組む意識が低い」という児童の実情が明らかになったことです。子どもたちや家庭から、一律に与えられた課題に対する抵抗感がある、という意見もあり、自分で意欲的に課題を見つける方針へ舵[かじ]を切りました。
 導入から約1年。保護者の約60%は「宿題の強制感が薄れ、子どもがイライラしなくなった」「自分から行動する積極性が増した」と評価します。一方で「同じ宿題を出してもらう方が安心」「他校の生徒と学力差がつくのでは」という不安の声も聞かれます。こうした不安解消へ学校側は、小テスト実施や学習アプリの活用などで学習理解や定着度を定期的に確認しています。土屋貴俊校長は、小規模校で児童の特性を把握しやすい利点を前置きしつつ「児童個々に合った助言をすることで、本人に気づきを与えることが重要」と指摘し、「『学びは楽しい』と気づいた児童は、生涯にわたって自ら考える習慣と探求する力がつくのではないか」と期待を寄せます。

 次回の賛否万論は同じテーマで、将来の教育を担う現役大学生が、教育現場の実践学習を通じて感じたことや、児童の放課後について地域と学校が一体になった取り組みなどをお届けします。

ご意見お寄せください
 子どもたちにとってどんな“放課後の学び”が理想だと考えますか。幅広い視点の投稿をお待ちしています。
 宛先は〒422―8670(住所不要) 静岡新聞社編集局「賛否万論」係、<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

教育・子育ての記事一覧

他の追っかけを読む