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テーマ : 教育・子育て

不登校でも「学校」に行かせるべき?① 広がる「受け皿」選択肢【賛否万論】  

 全国的に増加傾向にあり、ネガティブに捉えられがちな「不登校」ですが、従来の「学校」に無理に行かせない選択肢が広まりつつあるとも言えます。その受け皿になっているのが小中学校段階のフリースクールや高校段階の私立通信制高校。フリースクールや私立通信制高校の現状を紹介し、いわゆる「学校」以外の選択について考えます。
 (社会部・大橋弘典)
不登校の受け皿と「学校」のイメージ図
フリースクール 自己肯定感高める  小中学校段階で不登校の子どもの受け皿になっている「フリースクール」の定義は決まっていません。学校教育法で定める「学校」(1条校)ではなく私塾と同じ位置付けで法的な縛りはないため自由度が高く、教育方針や活動に幅があります。呼び方も多様で「オルタナティブスクール(もう一つの学校)」や「子どもの居場所」などと呼ぶ施設も。ただ、児童生徒一人一人に合わせた個別的な対応で自己肯定感を高めていく点は共通しています。
 「時間割は特にありません」。小学5年から中学3年まで約20人が在籍する浜松市南区のフリースクール空を訪ねると、子どもが輪になって雑談したり、テレビゲームやカードゲームをしたりして思い思いに楽しんでいました。輪の中に入っていた卒業生の山田竜士さん(20)=同区=が「予定を決めると、それに従って動かなければならないのでストレスになる。フリースクールは先生という立場の人がいないので、上下関係がなく居心地がいい」と説明してくれました。
 遠足やウオーキングなどの野外活動や誕生日を祝うイベントもあり、子どもが希望すれば学習活動にも対応します。同フリースクールを運営するNPO法人の西村美佳孝[みかこ]理事長は「遊び中心だが、心のリハビリになる。子どもたちは傷ついてここに来るので、自尊感情や自己肯定感を回復して次のステップに行くまでの居場所。子どもに頑張らせてできたことを褒めるのではなく、ありのままを受け入れている」と活動方針を紹介しつつ、「フリースクールは運営者によってそれぞれ考え方が違う」と付け加えました。
 静岡県内には他にも多くのフリースクールがあり、活動の方針や運営形態はそれぞれ異なっています。単体で運営されるだけでなく、障害者福祉施設や放課後児童クラブ、学習塾、通信制高校などと連携している場合もあります。そこに通う不登校の子どもの背景も多様で、発達障害で集団生活になじめない子もいれば、教員や友人との関係がうまくいかなかった子、家庭の貧困や虐待が不登校につながった事例もあります。
 2017年に施行された教育機会確保法は多様な学びの重要性に触れ、その後、各小中学校長が国の指針に基づきフリースクールへの“登校”を「出席扱い」にすることも可能になりました。ただ、あるフリースクール関係者は「フリースクールや不登校への偏見は消えていない」と口にします。
スタッフとカードゲームを楽しむ子どもたち(手前)=11月上旬、浜松市南区のフリースクール空
 滋賀・東近江市長「国家の根幹崩しかねない」発言 識者「教育受ける子どもの権利は…」
 滋賀県東近江市の小椋正清市長は10月に同県の知事や市町長の集まる会議で、フリースクールの実態を知らないまま「文部科学省がフリースクールを認めてしまったことにがくぜんとしている。フリースクールは国家の根幹を崩してしまうことになりかねない」と発言しました。
 「大半の善良な市民は、嫌がる子どもに無理してでも義務教育を受けさせようとしている。フリースクールの存在をよっぽど慎重に考えないと公立学校の存在を否定することにつながる」とも述べました。
 憲法26条は、保護者が子どもに教育を受けさせる「義務」と、子どもを含む全国民の教育を受ける「権利」を定めています。
 不登校の問題に詳しい常葉大の太田正義准教授(教育心理学)は取材に、「保護者に教育を受けさせる義務はあるが、必要があって子どもを休ませるのであれば、義務教育を果たしていないことにはならない」と解説し、「不登校は、学校教育からドロップアウトした子どもの教育を受ける権利が保障されていない問題と言える。子どもの多様性に合わせて学校が変わるべきではないか」と話しました。

私立通信制高校 通学で独自教育も 生配信される動画(中央奥)を見ながら学ぶ生徒。教室の教員2人は机を回って生徒に声かけする=11月上旬、静岡市駿河区のおおぞら高静岡キャンパス
 中学まで不登校だった子の受け皿として、ICT活用や自然学習など独自の教育内容で注目を集めるのが私立通信制高校。県内に法人本部を置くのは現在、キラリ高だけですが、全国的に知られるN高をはじめ、県外法人の参入が相次いでいます。従来の「通信制」のイメージとは異なり、主要駅近くのビルに構えた「教室」に通学し、集団生活になじむ生徒も多いです。
 「他人が対立している時にどう仲直りさせるのかが今日のテーマです」
 通信制高校のクラーク記念国際高静岡キャンパス(静岡市駿河区)の教室で毎週行われる心理学の授業。生徒はけんかする役と仲介する役を演じ、対立を避ける方法を話し合いました。
 入学する生徒の8、9割は不登校経験があるという同校。1年時に「ピアアシスタント」と呼ばれる学生カウンセラーの資格取得を目指し、怒りの感情を客観的に理解するアンガーマネジメントや人間関係の課題解決方法などを学び、集団生活に生かしています。
 中学2年の時に人間関係のトラブルで不登校になった同校1年の片山太希君(16)は今では人間関係に悩まず毎日通学し、取材に「授業で学んだことが日常生活に使えて、ためになる」と笑顔で答えました。靭矢[うつぼや]修平キャンパス長は「学校生活で安心感を築く土台になっている」と授業の効果を説明し「通信制が先行し、新しい学びをつくりたい」と意気込みます。
けんかを仲直りさせる方法を心理学の観点から議論する生徒=11月上旬、静岡市駿河区のクラーク記念国際高静岡キャンパス
 広域通信制と呼ばれる全国各地にキャンパスを置く高校では遠隔授業を活用してきめ細かく指導する取り組みも進んでいます。半数以上の生徒が不登校経験者というおおぞら高静岡キャンパス(同区)はコロナ禍を機に遠隔授業を導入。学習の積み上げが必要で生徒の理解度に差が出やすい数学や化学などの教科で取り入れています。
 県外の法人本部から「授業の上手な教員」が各地の教室に授業動画を生配信すると同時に、教室では別の教員2人が机の間を回りながら生徒一人一人の学習状況を確認。遠隔授業と対面授業の双方の利点を生かし、不登校で学習できていなかった“穴”を埋めていきます。岩田佳樹キャンパス長は「教員1人で一斉授業するより生徒の状況を把握しやすい。(不登校で)入学時の学習状況にばらつきがあっても、ほとんどの生徒が3年で卒業していく」と明かしました。
 私立通信制は学校ごとに特徴が異なり、集団生活重視から個別指導重視まで教育内容は多種多様。教員との相性の問題を解消するため、担任を生徒が選べる学校も多いです。勤労青年向けの通信教育制度から生まれた学びの場が、既存の学校教育に風穴をあけつつあります。

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