あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 教育・子育て

不登校でも「学校」に行かせるべき?④ 関係者インタビュー【賛否万論】

 不登校への対応は小中高校の発達段階で異なります。小中段階の民間の受け皿はフリースクールが中心ですが、高校段階は私立通信制高校が存在感を示しています。県内に拠点を置く私立通信制高校の一つ、つくば開成高静岡校のキャンパス長として不登校の子の支援に長年携わってきた鮫島功さん(50)に、中高生の不登校の実態やその背景、通信制高校の特徴などについて聞きました。

鮫島功さん
鮫島功さん
生徒一人一人に対応し、きめ細かく指導する私立通信制高校の教員=12月上旬、静岡市葵区のつくば開成高静岡校
生徒一人一人に対応し、きめ細かく指導する私立通信制高校の教員=12月上旬、静岡市葵区のつくば開成高静岡校
鮫島功さん
生徒一人一人に対応し、きめ細かく指導する私立通信制高校の教員=12月上旬、静岡市葵区のつくば開成高静岡校

 硬直化した制度に課題 鮫島功さん(私立通信制高キャンパス長)
 コロナ禍で不登校の子が増加しましたが、中高生の不登校の実態を教えてください。
 「増加の原因は複合的ですが、コロナ禍で急増したのは、子どもが学校に行かないことに慣れてしまったり、家庭に長くいることで生活困窮などの家庭問題が表出しやすくなり登校の意欲がなくなったりしたことが考えられます。いったん不登校になると再び学校に通い始めるのはなかなか難しいです。通信制高校に入学してくる時は、多くの子が自己否定的で無気力になり意欲が減退しています。他人への警戒心が強く、感覚が鋭くなっています」

 中学校での状況はどうですか。
 「学校生活で努力や我慢をしても成果が上がらず、見通しが立たない体験をすることで無気力な状況に陥ります。例えば、どんなに頑張って勉強しても学習方法が間違っていて、その子に合ったやり方をしていなければ効果が表れません。特に発達障害や発達に凸凹がある子は、学習指導要領に基づく通常の学校教育が合わず、努力をしているのに学力が向上せず意欲が失われることがあります。学校は集団教育が中心なので、周囲と交わりにくい子が他の子との関係性で自分が劣っていると感じ、孤立して成果が上がらなくなることもあります。逆に環境を変えれば改善するケースもあります」

 中学校の教育の在り方に課題があるのですか。
 「通信制高校の立場から見ると、そう思います。ただ、中学校の教員が悪いわけではありません。公立の学校は平均的な中間層に焦点を当てた仕組みが中心になっていて、個別の支援に十分に対応できていません。中学校の教員の資質や不適切な対応が不登校につながったという事例もありますが、多数ではないのです。個別支援が必要な子の受け皿になる社会インフラが不足していて、不登校の子は硬直化した教育制度の犠牲者と言えます。家庭や教員の問題に矮小[わいしょう]化すべきではありません」

 小中学校段階で不登校になった場合、高校に入学できますか。
 「公私立の全日制高校は出席日数だけで合否を判断しないとしていますが、小中学校で長期欠席して学習が遅れている不登校の子はほとんど入学できないのが実情です。全日制の高校では、そうした子をフォローできる体制が必ずしも整っていないので受け入れられないのです。仮に入学できても学習に付いていけず中退する生徒も多く見受けられます」

 公的な受け皿として、公立の定時制高校や通信制高校もありますが。
 「教員の専門性にも課題があり、十分に機能しているとは言えないのではないでしょうか。不登校や個別の支援を必要とする子を指導する専門の教員免許制度や十分な研修制度が整っていないことも背景にあります。また、全日制の学校を経験した教員が配置され、一定期間で全日制に再び異動することが多いため、不登校の子どもに対応する十分な経験や見識を持った教員やスタッフが育ちにくいのです。専門性に乏しい教員が七転八倒しながら現場対応しているのが実情のようです」

 制度が社会の変化に対応できていないのですね。
 「国も制度を整えようとしていて、以前より良くなっているのですが、急激な不登校の増加に追い付いていません。これに対して民間の団体は機動性があり、変化に対応しやすいのです。小中学校は公立が中心ですが、高校になると、民間の関与が強まり、学校も選択できて制度の自由度が高まります。その代表格が私立通信制高校です」

 通信制高校と言うと自宅学習のイメージがありますが。
 「通信制高校は元々、仕事をしながら学習したいという勤労青年の教育制度を整えようと企業内学校からスタートし、高校に毎日通わなくても高校の学習ができるというのが制度の出発点でした。時代が変わり、卒業のハードルが低く、カリキュラムに余裕ができるため、学習指導要領にない教育も自由に展開できるという制度の特徴を不登校の子の受け皿として活用するようになりました。本県のキラリ高をはじめ学習塾が出身母体になっているケースが多いです」

 教育内容は全日制と異なるのですか。
 「全日制は多くの生徒にとって健全に育ちやすい仕組みなので、今後も主流であるべきです。一方で自由度の高い通信制には多様性があり、個々の状況に合わせた対応を取りやすいので、多様性のある不登校の子の受け皿には適しています。全日制のように毎日通わなくても高校を卒業できる仕組みになっているのも違いです。多くの私立通信制高校で心理学や支援教育に精通したスタッフが数多く配置され、専門性の高い職員が不登校の子に対応しています」

 静岡県内の私立通信制高校の状況は。
 「静岡県内に学校法人がある狭域通信制高校が近隣の県に比べて少ないのが特徴です。そのため、他県に法人本部のある広域通信制高校が県内に参入しやすく、多くの学習拠点を設けました。結果として全国屈指の激戦区になっています。特に県中西部は通信制高校の生徒の割合が全国平均を上回っています。通信制高校の数が多いので競争原理が働き、各校が切磋琢磨[せっさたくま]することで教育の質が向上し、支持を受けた学校が生き残っています。近年は保護者の関心が高まり、見学者や入学希望者が急増しています」

 今後の課題についてはどう考えますか。
 「不登校の問題には中間層を育てることに力点を置き過ぎた日本の学校教育制度の課題が表れています。平均から大きく外れた少数派の子どもを教育する体制の整備が軽視されてきたのです。私立通信制高校はギリギリまで経営努力をしていますが、個別対応や少人数教育に対応するため学費が高くなるのは必然で、入学を諦めざるを得ない所得の低い世帯もいます。どんな子も十分な教育機会を得られるような仕組みづくりが求められます」

 さめじま・いさお 千葉県出身。1998年から通信制高校の教員(国語)で、一貫して生徒指導を担当。つくば開成高静岡校キャンパス長を2004年から務め、静岡校を含む県内5拠点を統括している。

 ご意見お寄せください
 不登校やフリースクール、通信制高校などにまつわる体験談やご提言、ご意見などをお気軽にお寄せください。お住まいの市町名、氏名(ペンネーム可)、年齢(年代)、電話番号を明記し、〒422-8670(住所不要)静岡新聞社編集局「賛否万論」係、<ファクス054(284)9348><Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください(最大400字程度)。紙幅の都合上、編集させてもらう場合があります。

 次回は同じテーマでしずしんニュースキュレーターや読者の意見を紹介します

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

教育・子育ての記事一覧

他の追っかけを読む