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テーマ : 長泉町

先生の残業代 どうあるべき?③ キュレーター/読者の意見【賛否万論】

 公立学校教員の多忙化が進む中で、「定額働かせ放題」とやゆされる給与制度の見直しが課題になっています。教職員組合や教育評論家へのインタビューを通じて、残業代や労働時間の在り方をどのように改善すればいいのか考えてきました。今回はキュレーターと読者の意見を紹介します。


子どものため、自分の時間取り戻して
高木有加さん(長泉町)


 

 

1男1女の母。ママ防災塾マモルマムズ代表。レンタルスペース「ママとこどものヒミツキチmorisbase」の管理人。ミッションは「孤独な子育て、ダメ、ぜったい。」
 「部活未亡人」という言葉をご存じですか。今回のテーマをいただいて、教職員として働く友人たちに実情などを聞いてみました。その中で知ったのがこの言葉です。教員の夫が部活動の顧問として忙しく、そのしわ寄せを受けて妻が孤独に苦しむ様子を「部活未亡人」と表現するとか。教職員を夫に持つ妻たちの間では普通に使われているようでしたが、そのくらいに当たり前になっているということの異常さに私たちが気付かなければいけません。
 教師は文字通り、読み書き計算などを教える職業であり、少なくとも法律で教職調整額が制定された1971年当時は部活動の顧問はこの範疇[はんちゅう]に入っていなかったでしょう。
 例えば寝る時間が削られるだけで、翌朝の家族や子どもたちへの心持ちや声掛けが違うのは、子育てや介護をしている多くの人が経験済みだと思いますが、これが30人超えの個性豊かな子どもに囲まれてイライラせずに健やかに子どもを見守り学ばせるためには、まずは先生がきちんと休息が取れていることが必須。時間外手当がどのように支給されるか以前の、そもそも“時間外が月平均8時間だった頃にまで働き方を戻すこと”の方が大事なのではないでしょうか。
 かつて私が小学生の時代は、将来なりたい職業の上位にあったのが「学校の先生」でした。かくいう私も、そう夢見ていた一人です。現代の子どもたちが果たしてどのくらい教師を夢見ているか、調べてみたところ、順位は下がっているものの依然として10位以内に教師のワードはありました。
 しかし、部活未亡人、部活非婚、部活離婚などという言葉が普通に語られ、先日の本紙でもコロナ禍で精神疾患の教師の長期療養者が増えていることを取り上げていました。子どもにとって憧れの職業だからこそ、教師が疲労で心を病んでしまう時代になんて、なってはいけないのです。
 私には、小学校を卒業して30年以上たっても、いまだに心に残る恩師がいます。子どもにとって一番身近な場所にいる親以外の大人の存在は、その後の生き方のロールモデルになるといっても過言ではありません。多くの場合、それは教師だったりします。
 子の親として、こんな大人になりたい、こんなふうに人生を楽しみたい、こんなふうに子どもたちに夢を与えたい、子どもたちがそう感じてくれるような先生に、子どもに伴走してほしい。
 そのために、教師の負担自体をもっと軽く。教員数をもっと増やしたり、部活動の地域委託化も進めて、早く先生たちが自分の時間を取り戻せることを心から願いたい。人ごとでなく、自分の、地域の、子どものために大事な問題です。
授業は午前、午後は「地域型クラブ活動」
松浦静治さん(島田市)

 

 

任意団体StudyLikePlaying代表。20年間の小中学校教員生活の後、早期退職して地域で子どもを育む活動を実践。フリースクール、寺子屋、自然体験教室等を展開
 学校の教員は家庭に持ち帰って仕事をしていたり、自己のスキルを高めるために休日を使って研さんを積んでいたりで、「残業」として時間を計測しにくいという現実があります。ですから、「残業代」ではなく「教職員調整額」という考え方には一理あると思います。
 しかし、問題なのはそこではありません。とにかく仕事が多過ぎる。やってもやっても終わらないのです。社会が学校にあまりにも多くのことを押し付け過ぎているからです。その解決方法があるとしたら二つだと思います。一つは教員を増やす。もう一つは仕事を減らす。
 今の日本の財政状況からして、教員を増やすのはなかなか難しいでしょう。しかし、仕事を減らすことはできると思います。それは、学校の授業は午前中までにするという方法です。そして、午後からは学校の校舎を地域に開放して、子どもも大人も共に学ぶ有料の生涯学習の拠点としたら良いと思うのです。
 学校で行ってきた生活科や総合的な学習の時間、新たに導入された英語やプログラミングは学校ではなく地域で行ったら良いと思っています。そこで子どもと大人が一緒に料理を学んだり、一緒に英語やプログラミングを学んだりするのです。私はそれを地域型クラブ活動と呼んでいます。
 この結果、教員の仕事は午前で終わるので給料を減らします。その代わり、教員に副業を認めます。教員が、午後は自分の特技を生かして地域型クラブ活動の講師をしたら、そこで収入が得られるようにするのです。それによって、部活動の地域移行もできるようになるでしょうし、大人のリスキリングもできるようになるでしょう。
 ただし、この場合、お金のない人は地域型クラブ活動に入れないという心配があります。そこは行政が補助をすべきところだと考えます。子どもと大人が一緒に学ぶ場所が作れれば、学校の教員の負担は減らせると思うのです。
工場勤務だって〝激務〟
読者 まるしぇさん(富士市)

 40年ほど前、私が中学2年の時、社会の教師は「米国は悪い。ソ連は良い」と語っていた。ある日、その先生は「いいか、これから授業に関係ない無駄話をするからな」と話を始めた。
 私は黒板の写し切れなかった内容をノートに取ったが、定規が鉛筆の黒鉛で汚れたので定規に消しゴムをかけた。すると先生はいきなり金属製のパイプ椅子の折れた脚で私の右頭を殴り付け、こう言った。「おまえ、俺の話を聞いてるのか」
 中休みになり私は水道で頭を冷やしたが、痛みは消えない。仕方なく、ぬれハンカチを頭に載せて2時限目の授業に出ると、今度は先生は私の左頭を例の鉄パイプで殴り付け、こう言った。「てめえ、それは俺に対する当て付けか」
 教師の残業が言われるが、私自身、工場勤務で「サービス」の早朝出勤、残業は当たり前だった。バイトでもそうだった。また、工場のライン作業の人は10分休憩までトイレも我慢する。プレス工場では腰痛や金属型の取り換え時に指を挟んだりする。製紙工場では真夜中に巨大なロールを人力で運んだりする。
 よく「教師は激務」と言われるが、プリントを学級委員に運ばせたり、「自分で使う教室は自分で掃除しろ」と言いながら、自分で使う職員室を生徒に掃除させ、灰皿まで生徒に洗わせる教師は激務なのか。
子の在校時間短縮を
中村守孝さん(浜松市中区)62歳

 教員時代、私の勤務地では、教員の勤務開始時刻と子どもの始業時刻が同じ8時でした。そのため、朝から時間外勤務を強いられました。教員の勤務を正常なものにするためには、勤務体系の見直しが必要です。
 午前7時半には昇降口が開きました。子どもが登校すれば、けがやトラブルが起きるのは自然なことです。その上、登校時の交通事故やトラブルへの対応まで学校に求められます。これらに対応するためには、子どもが家を出る頃には出勤していないといけません。
 また、始業前に宿題や提出物のチェックをすることは、担任教師にとって重要な業務です。
 現状は、教員が勤務開始時刻よりはるかに早く出勤せざるを得ない状態になっています。子どもの始業時刻を、教員の勤務開始時刻より30分以上遅くするべきです。しかし、子どもの下校時刻を遅くすることはできません。子どもの在校時間を短くするためには、学習指導要領や学校教育法施行規則の改正が不可欠です。



 ■次回も同じテーマでしずしんニュースキュレーターや読者の意見を紹介します。
キュレーター  「しずしんニュースキュレーター」は、新聞記事や時事問題の“ご意見番”として、静岡新聞の記者が推薦した地域のインフルエンサーです。毎回それぞれの立場や背景を生かしたユニークな視点から多様な意見を寄せてもらいます。

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