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テーマ : 長泉町

フジアザミ 大きな頭花 荒れ地に「生命」【しずおかに生きる植物 秋①】

 1707(宝永4)年の旧暦11月23日、富士山南東斜面中腹での大噴火は江戸の町にまで火山灰を降らせた。山麓の広大な森や草原は火山砂礫[されき]に埋まり荒れ地と化した。生命の全くない世界である。しかしここに最初に種を飛ばし、生きてきた植物がある。フジアザミである。

火山荒原に生きるフジアザミの大群落
火山荒原に生きるフジアザミの大群落
巨大なフジアザミの頭花
巨大なフジアザミの頭花
火山荒原に生きるフジアザミの大群落
巨大なフジアザミの頭花

 アザミの種類の中で世界最大級であり、その頭花は直径約10センチにもなる。葉を大きく広げ、鋭いとげを付けた巨大なアザミである。頭花の総苞片[そうほうへん]の縁にも鋭いとげが生え、他のアザミとは異なる。
 富士山を中心地として中部日本に広がる。フォッサマグナ南側に分布する植物(フォッサマグナ要素)の代表種であり、わが国固有の多年草。キク科ゆえにタンポポ同様、果実は風に飛ばされ勢力を広げてきた。
 ブナ帯と呼ばれる山地の中でも、その崩壊地や河原など荒れ地が生活の場である。そこにはヤマホタルブクロ、イタドリ、ヤクシソウ、フキなどの草本類も生え、崩壊裸地の限られた立地に群落を発達させる。
 しかし、この崩壊裸地にもやがてススキやトダシバのイネ科が侵入し草原へと移り変わり、フジアザミの生きる場は失われる。
 一方、富士山では絶えず雪崩が頻発し、崩壊裸地が誕生し、フジアザミの生える環境が出現する。フジアザミの生きる姿は、さまざまな山の中でも、火山の山、富士山が最もよく似合う。
 フジアザミはパイオニア植物の代表格。荒原に最初に侵入しやがて草原へ、そして森へと豊かな森づくりに欠かせない。荒れ地に咲くフジアザミの風景は圧巻であり、広大な山麓でその姿に巡り会えるとうれしい。
 (文と写真・菅原久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)

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