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テーマ : 長泉町

カラマツ 砂礫地にたくましい森【しずおかに生きる植物 秋②】

 富士山の森林限界にはカラマツが映える。カラマツは季節ごと見事に様変わりする。春の新葉は若緑色、夏はもえぎ色、秋を迎えた黄葉は落葉し、地面に黄色のじゅうたんを敷き詰め、松ぼっくりを落とす。冬の裸木はたくましく生きる樹形を見せてくれる。

一面に黄葉するカラマツ
一面に黄葉するカラマツ
青空に浮かぶカラマツの松ぼっくり
青空に浮かぶカラマツの松ぼっくり
一面に黄葉するカラマツ
青空に浮かぶカラマツの松ぼっくり

 カラマツは、本州中部の亜高山帯に限って自生するわが国固有の落葉針葉樹である。この亜高山帯はシラビソやトウヒなど常緑針葉樹の世界。しかし、その中でも常緑針葉樹さえ生きられない過酷な立地に、カラマツが生える。
 独立峰の富士山は風が強く、特に冬季の偏西風は枝を伸ばすことすら許さない。砂礫[されき]地は乾燥、極低温。頻発する雪崩は裸地をつくる。この過酷な環境に生きることができる樹木は限られている。カラマツである。
 カラマツは火山砂礫地に芽生え、成長し、永い年月をかけて森へ移り変わる。カラマツが成長すれば土が肥え、保水力も増し、多くの植物が芽生える。やがてシラビソ、トウヒ、コメツガの常緑針葉樹の森へと移り変わる。
 うっそうとした森の林床には光が届かず、裸地を好むカラマツは芽生えることができない。この植生の移り変わりは「遷移」と呼ばれ自然界の大法則である。この地でカラマツは、パイオニア植物としての役割を見事に果たしてきた。
 宝永噴火(1707年)は一夜にして森を焼き尽くし、火山荒原を誕生させた。そして300年以上の時が森を再生させ、多様な植物、動物の世界を誕生させたのである。カラマツは火山の山で、たくましく森をつくり続けている。
 凜[りん]とした初冬の冷気に包まれた森林限界。澄んだ青空とカラマツの黄葉は、富士山の素晴らしさを確かに伝えてくれている。
 (文と写真・菅原久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)

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