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テーマ : 長泉町

バイカモ 古里の清流 涼やかな姿【しずおかに生きる植物 夏⑤】

 三島駅の南に広がる楽寿園の森。富士山を誕生させた約1万年前の噴火はこの地まで溶岩を流した。溶岩の上に植物が芽生え、自然の森が誕生した。スダジイ、アラカシ、ヤブツバキ、アオキなど、おなじみの木々がつくる常緑樹の森である。

清流を流れるミシマバイカモ
清流を流れるミシマバイカモ
楽寿園に広がる常緑樹の森=三島市
楽寿園に広がる常緑樹の森=三島市
清流を流れるミシマバイカモ
楽寿園に広がる常緑樹の森=三島市

 かつて低地を広く覆っていた常緑樹の森は切り開かれ、人間の生活域となって失われた。この自然の森を見ることは不可能に近い。幸い、楽寿園、三島大社の森などが、その面影を残している。
 富士山の湧水は楽寿園内に小浜池を誕生させ、源兵衛川に注ぎ、御殿川、桜川などが街中を流れる。この温暖な地の清流に花咲くバイカモは、氷河期の遺存種と考えられている。
 最終の氷河期(1万年前に終了)に寒さを避けて南下したバイカモは、その後温暖な気候になっても北の寒冷地に帰らず、冷たい清流に守られてこの地で生き続けている。水中にかれんな花を咲かせ、「梅花藻」の名で知られる。県内では他に、柿田川(清水町)や富士山本宮浅間大社(富士宮市)にある湧玉池にも見られる。富士山麓の湧水にバイカモは遺存したのである。
 楽寿園や社寺林の常緑樹の森、その森から流れる富士山の清流、そしてバイカモの涼やかな姿。これらの風景は、人間が暮らす以前の古里の原風景と言えるだろう。
 私たちは、幼い頃から身近な自然に触れることによって感性が育まれ、「古里の自然」を心に刻み成長していく。コンクリートの街中でこの豊かな感性を育むことは難しい。自然の歴史的財産を次世代に残したいものである。(水中葉だけのものはバイカモ、水面に浮葉があるものはミシマバイカモと呼ばれる)
 (文と写真・菅原久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)

 夏編は終了します。秋編は10月に掲載します。

 

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