あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 長泉町

アオキ 英国に送られた雌雄異株【しずおかに生きる植物 冬④】

 光沢のある深緑の葉と真っ赤に熟した実が特徴のアオキ。枝まで青い常緑の低木だ。学名は「アウクバ ヤポニカ」。「青木葉」の和名がそのまま学名になっている。

冬のさなか、深緑の葉と赤い実が鳥を誘う
冬のさなか、深緑の葉と赤い実が鳥を誘う
アオキの雄花
アオキの雄花
冬のさなか、深緑の葉と赤い実が鳥を誘う
アオキの雄花

 雌雄異株[いしゅ]で、花期は3~5月。雄花、雌花とも1センチほどのコーヒー色の4弁花を咲かせる。果実は長楕円[だえん]形、長さ2センチほどで果期が12月から翌年5月ごろまでと長いため、冬から春にかけて花と果実が同時に見られる。
 アオキの仲間は日本から中国、ヒマラヤ山脈の中腹に至る照葉樹林域に10~15種が分布する。わが国にはアオキ1種が自生し、社寺林など自然林内はもちろん、雑木林、庭先でも見かけるなじみ深い低木である。北海道西南部から本州日本海側の多雪地に生態的変種でやや小形のヒメアオキがある。
 アオキは1783年、ふ入り葉の雌株ばかりがイギリスにもたらされた。高緯度に位置するヨーロッパは、落葉樹の世界で冬は枯れ野一色である。冬の庭園や街中で常緑低木は人気を博したが赤い実を付けることはなかった。アオキが雌雄異株であることに気づかなかったのである。
 イギリス人のプラントハンター、R・フォーチュンの「幕末日本探訪記」(講談社学術文庫)によると、彼は1860年、幕末の日本を訪れた。目的の一つはアオキの雄株を持ち帰ることである。彼は横浜で雄株に出合い、「ワード氏の箱(ガラス張りの小さな温室)」で本国へ送った。
 厳冬のイギリス、スモッグで知られるロンドン。フォーチュンは、アオキが深紅の実をいっぱい付けて庭を飾る光景を想像し、「はるばる日本を旅行しただけの価値があると思う」と同書に記している。雌株が渡って77年後の出来事である。
 (文と写真・菅原久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

長泉町の記事一覧

他の追っかけを読む