フジハタザオ、イワスゲ 富士山頂 亜氷雪帯に登る 【しずおかに生きる植物 夏①】
わが国最高峰3776メートルの富士山。3000メートルを越えると木は育たず、草が点々と生えるだけである。高山荒原と呼ばれるこの溶岩裸地に生えるのはフジハタザオ、イワツメクサ、オンタデ、イワスゲなど数種の高山植物に限られる。
この中で、フジハタザオは富士山固有の植物。独立峰の富士山は近隣の山から遠く離れ、同種間の交配も無く新たな種となったのであろう。3000~3550メートルの「高山帯」に生え、本州中部以北の深山に生えるイワハタザオの変わり種と考えられている。
富士山は山頂から山麓まで急傾斜の裸地が続き、立地は不安定。さらに雪崩も頻発する。雪崩は高山植物を山麓まで押し流す。高山植物は高山帯で出合うのが一般的だが、富士山ではフジハタザオが山麓1400メートル付近で見られるのも特徴であろう。
高山帯3550メートル~山頂は「氷雪帯」と呼ばれ、種子植物が生きられないなど極端に厳しい環境である。しかし夏の間、山頂では氷雪が解け溶岩裸地となる。一年中氷雪に覆われることのない山頂域は「亜氷雪帯」と呼ばれる。
この山頂亜氷雪帯に1967年、初めて種子植物のイワスゲが確認された。その後種数は増え2019年までに7科9種が確認されている。イワスゲ、イワツメクサ、オンタデなどに加えて木本類のミヤマヤナギも生えていたのである。さらに人里に生える帰化植物のナガハグサが認められ驚かされた。
山頂の亜氷雪帯に種子植物が出現したのは、地球の温暖化が原因の一つであろう。確かに山頂の平均気温は1930年代に比べて0.81度上昇している。加えて、毎年20万人以上の登山者が夏季に押し寄せ、ブルドーザーが毎日荷を運ぶ。山頂に種子植物が登ったのは私たちと無関係ではないようだ。
(文と写真・菅原久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)